街発展クエスト発生!:領地内に住む吸血鬼問題を解決しろ!

SSS吸血鬼へ挑むより食器洗いが嫌い

「第一にこれを書いたのが誰か、それが問題だ」


「ハムレットみたいに仰々ししく喋りながら、ナチュラルに私を抱っこしないでください」


 食堂の椅子に腰かけつつも、相沢さんは俺を膝の上で抱っこして、手紙をじっくりと見つめている。顎を頭の上に乗せているので、たまにふんふんとした鼻息がかかって、耳がくすぐったい。あとやっぱり背中に柔らかいものが。


「今更血文字で『我の庭を綺麗にした奴は出てくるのじゃ』とか書く奴いる? もし本物の吸血鬼だったとしても、自分の指でこんなこと書く?」


 俺は頭の中で顔色が真っ青な吸血鬼が、自分の指を噛んで血を出し、少し痛がりながらも、蝋燭の下、丁寧に手紙に血文字を書いている姿を想像した。


「……威厳も何もないですね」


「血のインクで書いたとしたら、字が汚すぎて残念だし、血文字の手紙ってどこをどう取っても残念じゃない? どうするミキネちゃん」


 心底面倒くさいのか、相沢さんはふはぁとか言いながら俺の腰に手を回して、ぬいぐるみを抱くように感触を楽しんでいるようだ。


 逃げ出したいのにうまく逃げられない。この身体が不便な点はそこだ。


「そうですね。まず宿屋に人が来てもらうにはお客様が必要です」


「ふんふん」


「お客様に来てもらうには、あう——ある程度街にも設備が整っていないと、いけません」


「ほんほん」


「でも、なんでこの街はずっと放置、され、てさびれて、ひう——いたかご存じですか?」


「ふむふむ」


「あの、聞いてるふ、りして、わ、私の胸を揉まないでください。非常にくすぐったいです」


「あ、ごめん、つい、へへ」


 服の上からだし、真っ平だけど、同じ女同士ってこういうもんなの? え、普通なの? じゃ仕方ないとしか言いよう無いじゃないか。仕方ない。仕方ないものには巻かれるしかない。


何故なら仕方ないは仕方のないことだからだ。


「それは吸血鬼城のお膝元だからです」


 どどん! と大きく言ったつもりだが、こんな可愛い声で声を張っても、子供の戯言にしか聞こえない悲しさ。


「吸血鬼かー、めんどくさそうだなあ。夜だけ無敵のヒキニートで、ニンニク嫌いだし、水の上渡れないとかいうアイツでしょ」


「相沢さんにしては詳しいですね」


「へへ、一時期オカルトにはまった暗黒時代があったからね」


 ああ、だから猶更ボッチの時期あったのかな——。


「と、言うわけで吸血鬼を退治しにいくしかないですね。宿屋の復興、街の発展、そして溜まった宿屋のツケ」


「あたしヒーラーだからむーりー」


 面倒くさがる相沢さんの膝から無理やり逃れ、俺はそそくさと熊さんお人形型の可愛いバックを背負う。こんな時の為にとりあえず非常冒険用バックを作っておいて良かったぜ。


「私の《テイマーサモナー》で行けるところまで行ってみましょう。それともここに一人でいます? 食器洗いはお願いしますけど」


 食卓に顎を乗せたままの相沢さんは、目だけをスライドさせてシンクを一瞥し、


「こんなに可愛い子一人に吸血鬼退治なんて、神が許しても私が許しません——さあ、神のお導きを」


「無宗教で毎回よくそのセリフ言えますよね」


 そんなこんながあり食器洗いが嫌な相沢さんと吸血鬼退治に出かける事となった。

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