SSSな新人従業員確保——するきはないんだけど。

「さって、あたしはこれからどうしよっかな」


 うーんと背伸びをして、晴れやかな笑顔で俺を見る。全く無邪気なヒーラー様だ。


「仕事してください。そして宿代を払ってください」


「そだ、あたしを雇ってよ。ミキネちゃん」


「え、ええ……うちは給料だって出せないレベルですよ?」


「肉体労働で返す……よっ!」


 ぎゅっと俺に抱き着いて、相沢さんは俺を持ち上げる。決して豊満ではないが、形の良い何かが俺の平らな胸に当たっている。当たっている。当たっているが、仕方ない。むしろ苦しい!


「うーん、ミキネちゃん良い匂い。ここで二人で暮らすのも悪くないな——凄い可愛いしもふもふだし」


 昨日ドクターフィッシュに飲まれたせいか、相沢さんの頬は瑞々しく、すりすりされるだけで妙な気持ちになってくる。


「や、やめてください!」


 何とか手を精一杯伸ばして隙間が生まれた瞬間に地面にふわっと着地する。


「でも駄目です。労働には対価が必要です。お金は出せませんよ。まだちゃんと人来ないし」


「この宿屋で稼げばいいんだよ」


 ポンッと手を打って、相沢さんはニコッと笑う。


「そんな簡単に——」


 やれやれ、と俺は思いながらも何故か勝手に尻尾は揺れてしまう。悪くないとか思ってないぜ? 決してそう思ってない。ないはずだ。ないはず——だけど、この満面の笑みはずるい。いくら俺が完ぺきな超絶美幼女だったとしても、本家本元の自然な女子のスマイルに勝てるのはまだまだ先かもしれない。


「でも、それも悪くないかもしれません。ええ、そうしましょう。当面の目的は宿屋の経営を拡大」


「ついでに本当の街にしよう。せっかく土地も貰ったことだし」


 えへっと舌を出して相沢さんは上機嫌だ。


「ええ、一杯稼いで、早く宿代を返してもらわないと」


 ついでに本来の目的である、俺みたいに心が傷ついた人たちも癒したいしね。


「「やるぞー、おー!」」


 腕を突き上げたとき、頭の上に真っ青な蝙蝠が昼間なのに見えた。


 その蝙蝠はボンッと音を立てたと思おうと綺麗な模様の入った便せんに生まれ変わり、ひらひらと俺の手元に落ちてきた。


 そこには血文字で『我の庭を綺麗にした奴は出てくるのじゃ』と書かれていた。

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