SSSな本数を持つ剣士の幼女

「吸血鬼城までは歩いて三〇分くらいです」


 吸血鬼城の周囲は元々毒の沼だったが、今は清らな水源となっている。湖畔の近くの丘にあるのが吸血鬼城だ。


「ゲームで言うなら魔王が住んでそうな場所にありましたけど、この前の《大掃除》で静かな森の湖畔にある古びた城になっちゃいましたね」


「ミキネちゃんはその吸血鬼って見たことあるの?」


「無いです。たまに青い焔を纏った蝙蝠が、宿屋の近くを飛んでいたのでちらほら観察しには来ていたようですが」


「こんな可愛い子のお風呂場を観察するなんて——あたしだってまだ一緒にお風呂に入ってないのに——その吸血鬼はミキネちゃんのすべすべお肌で構成された肢体を、嘗め回す様に上から下までガン見したってわけ?!」


 お風呂を覗かれた記憶は多分ないのだが。


 相沢さんは何かを胸に強く誓ったのか、意識に呼応するように右腕の候が強く輝く。


「なんで右腕が輝いてるんですか……」


「あたしの開発した《シャイニング・退魔フィンガー》を試してやろうかと思って。触れた魔属性は死ぬ。そう、全ての生き物の記憶からもね」


「生きた痕跡と概念すら消すんですか……」


 来世、悔い改めなさいとかそういうレベルじゃない。聖者にあるまじき技じゃねえか。


「わたしも可愛い狐耳娘の普段の生活を常に覗き見したい——一人で浮かれている仕草、一人で鼻歌を歌っているとき、お風呂、トイレ就寝、おはようからお休みまで見守りたい。すべて好きな角度から嘗め回したい——神の導くままに!」


「神はそんな導き方しませんから。ですが相沢さんがいれば実際の戦闘は安心ですね」


 バグっているヒーラーが反則級の技を持っていて助かった。相手がどんな不死身の吸血鬼でも相沢さんがいれば何とかなるだろう。


「でもこの技、あたしの《妬ましいゲージ》が溜まらないと発動できないと思うんだよね」


「話の先を聞きたくないです」


「例えば吸血鬼から触手が伸びてミキネちゃんを、ねばねばした液体と共に組んず解れずしてスカートめくったり、服の裾から触手入れたり、吸血鬼から服を溶かす溶液をだされて服が解けたり、吸血鬼に下着だけ盗まれたりしない限り、この究極奥義は発動しないかもしれない。私が常にやりたいと思っていることを相手がしてこないとゲージは貯まらないの」


 そんな使えないゲージは廃止してしまえ。


 あと相沢さんがそれ使うには、触手付きのおどろおどろしい食虫植物にでもならない限り無理だからね?


「ん、あそこに誰かいますよ」


 そろそろ吸血鬼城が近い頃、木に背を預けている真っ赤な服装の少女の姿が見えた。


 少女は俺より少し大きいくらいなので、十歳から十二歳くらいに見える。


 髪型はボブカットで珍しいピンクの髪色。更にワインレッドのベレー帽のようなものを被っている。どこかのウェイトレスのように胸を強調する服装のはずだが、びっくりするくらい何もないので、ベースのワインレッド洋服色とインナーの白い服が分かれているだけに見える。ベレー帽色と同じプリーツスカートを履き、黒のストッキングと上等な革のブーツを履いていて年齢に見合わず服装だけは大人っぽい。


「あの子もなかなかの可愛さ——!」


「容姿じゃなくて怪しいかどうかで判断してもらっていいですか?」


 腰の細身の剣をぶら下げているので、一見剣士にも見えるが、異様なのはそこじゃない。腰のベルトに剣を七本ほどぶら下げていることだ。


 漫画やVR世界転生ならいざ知らず、ここはある程度物理法則がしっかりとひかれている異世界、七本も剣を指す意味がない。

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