第4話 財宝を発見

 深夜アニメ番組、今なら録画容量足りると思うんだけど? そう思っていたが、結局のところ日本に戻れなかった。やっぱり、人生甘くないな。この都市の様な遺跡に来てから西の城門跡までは見て回った。今度は反対方向の東へ遠出してみた。やはり廻りは破壊され風化した建物ばかりだ。だが、石やレンガの建物は西の城門方向になぎ倒されているかのように見えた。

「丁度、塔があった方になるのか?」

(なんだか怪獣が暴れたより酷そうだな。本物の怪獣がどんなのか知らないけど、そこは想像力で)

道なりに広場まで、ほぼ真っすぐ3キロほど進む。進むほどガレキが小さくなる感じがする。


 ガレキが道を塞いで壁になっている。目の前のあった大岩のような建物跡によじ登る。大岩から立ち上がると、目に飛び込んできたのは巨大な砂場だった。草も生えない場所を作り出し、ガラス状の爆心地と思われる跡からは一直線に城壁を超えて外へと伸びていた。途方もない規模の何かが落ちたのか? 昨晩の夜空を思い出した。

「流星が多かったからな―。ロシアのツングースカ隕石だったのか……」


 大きな都市だから犠牲者は多かっただろうな。こんな大きな爆発跡では、かなり離れた場所でも衝撃による地震があっただろう。おそらく欠片は気化して舞い上がり、運動エネルギーが熱に変換されて、巨大な爆発が発生しただろう。当然、衝撃波によって建物がなぎ倒される。強い上昇気流が立ち上り、キノコ雲は数十キロいや100キロ先でも見られただろう。そこには、爆発時の突風が分かる「ツングースカ・バタフライ」と呼ばれる、まるで蝶のような形に削られた跡が地表に大きく広がっていた。


 彗星だったら氷で出来ていると聞いた事が有る。大気圏外からやってきて大気中で爆発して蒸発したかもしれない。隕石であれば鉱物が残るだろう。何だったか分からないが、所々に落ちている金属の欠片がその名残かもしれない。ガラス化した地表に残っている金属塊もある。だが、ネットで読んだ隕石衝突の話と違って少しおかしい気がする。何かの力で一旦は弾いて防いだような感じがする。


 この破壊の原因は何だったんだろう? 巨大な都市だった物が、このまま時の中に埋もれていくのだろうか? 人知れず都市が失われ、人々が消えてからどの位の時が過ぎたのだろう……。暫くの間、考え込んでいたみたいだ。陽がだいぶ傾いていた。


「日暮れまでに出来るかな?」

転移した広場に戻る途中、ぼんやりと考えていた。車を動かさない方が良いとは思っていたが、何となく車を隠した方が落ち着く気がしてならない。これは虫の知らせと言うのかな。そういえば、やや離れた所に頑丈そうな建物があったし、あそこまでなら、ガレキを退かして車の移動もできそうだ。車が2台、すっぽり入っても余裕のあるガレージみたいな場所だ。邪魔になるガレキもスコップとバールで何とかなるぐらいの大きさだったし。


「もうすぐ日が暮れるな。ここなら良さそうだ」 

 三方を厚手の壁に囲まれ、上には屋根のように張り出した物もある。タープを張ってウッドストーブを置き食事の用意をし始めた。明日もバックに必要な荷物を詰めて調査しよう。今日も頑張った。自分を褒めてあげよう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 翌日は、ガレキとなった建物の中で絵や彫刻を見つけた。思っていた通りここは人間の都市だったみたいだ。描かれた絵の服は違っていたが人の姿だろう。建物や絵を見る限り、巨人では無さそうだ。大きさも地球の人類と同じぐらいらしい。出入り口や窓枠から考えて普通の人間サイズの大きさだ。都市だったことから社会秩序があっただろうし、間取りの跡の大小を見ると、貧富もしくは身分制度があったりしたんだろうな。


 道幅は10メートルぐらい。轍があったので車輪を使った輸送手段があり、住居には大きいと思える建物もある。これなら商店や食堂か酒場もありそうだ。ということは貨幣もあるということか。それに都市の周りが平坦な草原だったのは農地だったのかもしれない。この遺跡はカラカラに乾ききっているが、嘗ては水が供給されたはずだ。水は必要不可欠だからな。城壁からは見えなかったが近くに川か湖があったのか? 今は干上がってしまったのか……。

(水を見つけられれば、こんな場所でも余裕が出るんだが)


 遺跡となった都市の探索を続けている。見たくない物もあるかもしれないと思っていた。やっぱり地下の部屋で折り重なった人だったものを見つけてしまった。

「南無……、南無……」

やっぱり全ての人が、破壊から逃げられた訳じゃ無いんだ。


「スイマセン、異世界舐めていました。ヒー、こりゃ筋肉痛だな」

自転車はガレキで全く使えず、ここのところ荷物を背負ってずっと歩いていた為だ。ヒールの魔法が無いと辛いです。筋肉が悲鳴を上げた。ここから出て行くにしても何か情報が必要だ。焦る気持ちもあったがあれから3日、スケルトンにも出くわさず近くの調査に精を出した。


 スケルトンと言えば変わった骸骨を見つけた。毛皮の腰巻に日本の着物だ。猟師かな。髷を結っているし、江戸時代の人なのかな? 近くには赤く錆びた火縄銃が転がっていて鉈やワラジもあった。

「俺と一緒か。転移して来たんだ。でも、水も食べ物も無かったんだろうな」

やっぱり形だけでも弔いたくてガレキで小山を作って埋葬し、墓標代わりに火縄銃を置いた。

「南無……、南無……」


 うろつき廻っただけど、用心深く慎重なだけだからね。決してビビリではないから……重い90センチのバールは車に置いてきた。重すぎてこんなのは振り回せないし。筋力が足りない訳では無いが、スコップの方は握り易くて扱い易いんだ。それでもあちこち覗けば分かってくるものがある。


「ここ。やっぱ、ポンペイの遺跡だな」

 イタリアの、ヴェスヴィオ山の噴火で埋もれた都市を思わせる。文化は違うだろうが文明としてはかなり地球と似ていたんだろうな。大きな建物に残っていた壁には、モザイクタイルで風景や人の姿・暮らし向きが描かれてあった。


 ある建物の中では石のイスがずらりと並んでいた。横の壁に描かれた画には、魔法使いみたいな人が杖を持って大鬼の様な者にビームをあてている。赤い壁の部屋には騎士たちと大きな犬の様な動物が一杯いたりする。緑色の人型や、フードを被って光っている人もいる。巨大トラ・巨大オオカミ・巨大クマ・巨大ライオン、牙の長い鼻の無い大きな象、極め付きはドラゴンが描いてあった事だ。

(ここにいた人達って、想像力が逞しいね。これって映画やドラマじゃ無さそうだしね。ファンタジーの世界だよねー)


 住んでいた人達の持ち物も見つけた。衣服や家具・食器など日常品や子供のおもちゃなんだろうなという物まで様々だ。紙も見つけた。藁を加工して作ったのでわら半紙? 教室だったのかな、備品室みたいなのに有った。この世界の写真のような地図。それも大きな図表で黒板から吊るして見るやつ。

「フー、やっと地図を見つけれた。これで分かると良いんだが図表かー、ちょっと懐かしいな。今でもあるのかな? プロジェクターかパッドに代わっているかな?」


 ちゃんとスマホで写真を撮りました。現在地なのか? 赤丸表示されているけど、縮尺も分からないので距離が分からん。地図にはこの遺跡から放射状の道が描かれていた。東側と思う方に三本の道が記されていて山脈を通り抜けている。下の道が谷間を抜けていて途中にある湖や川に沿って続いているようだ。

「北は寒そうだし、真中は山に登ってしまいそうだ。東に移動するなら暖かそうな南側寄りの道にするかな」


 この世界は、古代ローマや中世もありって感じかな。壁画を見るとまるで魔法みたいのが描かれているし全くわからん。色々混じっているしね。ウェブ小説読んでいたお蔭もあって、いろんな意味でショック耐性付けていて良かったよ。ホント、壁画を見るだけで魔法の種類が解るなんて理解力ついていると思うわ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 今度は西門とは反対側にある塔に向かった。中程まで崩れた尖塔に入る。危ないけど、高ければ周りを見渡せるしな。

「登れるよな?」

どうやら崩れている所までなら行けそうだ。らせん階段を登り終えると、丁度上がってきた踊り場の反対に、窓のような大きめの亀裂があり外が見えた。サブバックから、単眼鏡を取り出して街を見廻してみたんだが。

「あれは……、何だ!?」

見ると蛇みたいな長い胴体に、ゆっくりと羽ばたいているような生き物が空を移動していた。

「ドラゴン。いるわ!」


 あわてた―。バカな、あんなのが空を飛んでるなんて。飛んでいたものを考えながら、車まで隠れるようにして引き返した。

「そーと、そーと」

町からは少し距離があったので大丈夫だと思おう。城壁の向こうだったし、あれだけ離れていたんだ見つからないと思うんだけど。隙間から見ただけだし、見つかるのはまずいよね。ウゥ、混乱している。自分でも分かる。


「あれは、ドラゴンだったのかな……見間違えじゃない。ドラゴンだ」

ここに転移してきて、最初に見た生物がドラゴンだったなんて。遠くから見てもかなりの大きさだったし。ドラゴンが空を飛んでいる世界なのか。しかしドラゴンなんて! 重力、仕事しろよ! 魔法でもなければ、あんなのが飛べる訳がない。イヤ、異世界なら魔法もアリかも知れんぞ? 空を飛んでる豚ならまだ分かる? ん、いかん。落ち着こう。車にもタープをかぶせて土でカモフラージュして見つからない様にしなきゃ。


 あせっていたのかな? 車を奥に隠そうと動かしたとき、アクセルとブレーキの踏みちがえてドーンと壁にぶつけた。これじゃ、お年寄りの事を言えないな……。俺は元気だけど自損事故発生である。異世界でも保険がきくのかな。緊急時には電話すればレスキューと場合によってはホテル代も出る保険だったんだけど。残念だ。ライトは片側が割れている。いかん、前はおそらくラジエターだな。液漏れしている。日本の車は壊れても乗員の保護を優先している。なのか……。


「オ! オ! 何だ。あれ!」

 大きな建物跡だった所にぽっかりと穴が開いてた。壁の一部が崩れた向こう側には、廊下のような隙間があり右手には下へ続く階段が見えていた。左の方向はガレキで塞がれていて人は通れそうもない。ゆっくり車を後ろに動かして考えた。


「落ち着け。さっきは混乱しただけだ。こんな時は直ぐに入らず安全確認しないと。変なのが出て来るのはイヤだしな」

 30分程だが、換気が済んだだろう頃に離れた所から、焚き火の燠を放り入れて様子を見てみる。その間に小さ目の松明もどきを作る。通風がなければ限られた酸素しかないはずだ。空気の流入がなかったらば、こんな穴に入ったらあっという間に酸素を使い果たして酸欠になるな。不燃性ガスなら酸欠で消えるし、可燃性ガスならドカーンかな、確かめようもないし。


 マァ、仮に気付いて逃げようにも、地下や炭鉱では簡単に逃げる事ができないし。第一、誰もいないんだ。助けに来る訳無い。はやる気持ちを抑えて様子を見る事にした。しばらく見ていていて気付いた。あそこには風があるんだ。煙が動いている。今の衝突で壁が壊れて空気の流れが出来たんだ。


 昔、勉強した事を思い出さなきゃ。確か可燃性ガスには、一定濃度のガス量と酸素がある状態で着火すると爆発するという性質があって、通気が悪い場所たまりやすい場所などは要注意だったな。多すぎても少なくてもダメという事か。ひょっとして小説の冒険者たちが、洞窟に松明持って入るのは正解かもしれない。だが、正解が爆発になるかも知れない可能性もある。


 幸い、松明はゆっくり燃え続けているようだし風も感じる。車をタープで覆い、土をかけて隠し終えた。さらに30分おいて中に入ってみる事にした。LEDのヘッドライトを確認し、スコップを持ち直して地下に降りていく。頑丈そうなドアが塞いでいる。押したり引いたり叩いたりしてみたがピクリともしない。無理かなと思ってドアに背を向け寄りかかった時、カッチと音がした。ズボンの後ろポケットに入れていた、カードがドアノブに触れるたようだ。


「カードは建物の入館許可証だったのか?」

散乱していたカード。何の気なしに一枚をポケットに入れてたのだ。免許証サイズでホログラムみたいだなと思ってジッと見ていたあのカード。鏡の面にはいつもの27才の独身男子が、多少埃っぽい顔で映されていた。


 エントランスの様な小部屋の向こうには、またドアがある。厚手のドアの鍵は開けられたままだった。そして部屋の中が見えた。部屋からあふれ出しそうな金貨銀貨に大小宝石、ポテトのような半透明の珠。装飾過多の剣、思いっきり切れそうなナイフ、趣味の良さそうな兜と鎧、場違いかと思うような灰色のローブや銀色のTシャツなどの衣類。

「なんだ、ここ? そうだ! ここは、映画で見たぞ。金庫室か宝物庫だ!」


 さらに奥に小部屋があった。金貨を踏みながら部屋に入る時、時計の様なカチカチ音が聞こえていたみたいだけど気のせいかな。棚には巻物みたいなのが一杯置いてある。巻物にされてた紙を広げる。何か字か図の様な物があるなと思ったら、直ぐ光って消えた。青色の軸の巻物を、広げたら消えちゃったんだけど。緑色のも同じだ。もう一つだけ、虹色みたいのを取って広げて視る。やっぱり消えちゃう。


「なんか、クラっときたな」

気分が悪い。すぐに表へ出ようとしても歩けないので座り込んでしまった。暫く、じっとしていたが何とか外に出て来られた。

「空気でも、おかしかったのかな。えらい目にあった。おや? もうカチカチ音はてしないな」

あれこれ考えてみたが、今日の探索はもう止めてじっとしていよう。

「やっぱ、宝物に何かあったのかな。まさか、ツタンカーメンの呪い?」


 翌朝、気を取り直して宝物庫に降りて行った。今回は財宝の回収をしてこよう。やっぱり未練が無いと言うのはウソになるな。いずれにせよ、高そうな宝玉も有ったし、人がいるならきっと役に立つだろう。時代によって価値観は違うかもしれないが、金庫で大切に保管していた物だしな。


 金の価値が高いと決めつけず一通り持って行こう。流石に株券は無いだろうが、奥には巻物が沢山有ったからね。でも、運べる量は限られているし、水と食料の方がはるかに大事だ。草原の中の遺跡都市では、水と食料がなくなればアウトだしな。

「移動して、何とか人を見つけなければ!」

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