第3話 持ち物チェック

「やっぱり、異世界なのかな?」

そんな可能性、十分ありそうな気がして来た。日本に戻れないとなれば、いつまでもここにいる訳にはいかないな。ここにいれば早いか遅いか、何れにせよ水と食料が尽きてしまう。移動するなら早い方が良いかもしれないな。見慣れた車の天井を見上げて思う。何が有るか分からないが、餓え死にしたくないなら動くしかないのか。


 取り敢えず、現状の把握をしないとな。周辺の探索からか。バックパックに、要るかもしれない物を詰めながら思う。まずは、建築物だったんだろうガレキの様子を見て、どんな感じの場所か確認しないと。昨日ちょっと見た時、2キロ程先に城壁のような物があったはずだ。少し距離があるが、崩れた塔と崩れた城壁があったようだし。城門のような物の前まで行ってみるか。

 なぜ壁じゃないかって、異世界なら城壁に城門じゃないですか。ウ、アカン。既に考え方が歪んでいるような気もするが、これはウェブ小説読愛好家として自然な反応なんだと思おう。


 キャンプに使う革手袋を探しながら思う。非常時は、まずケガをしない事が大切なんだ。油断してたらかすり傷でも危ない。ケガをしないようにしないと。病院どころか抗生物質入りの塗り薬なんて売って無いしな。ガレキなどが散乱した場所では想像以上にケガをしやすいんだ。人の体なんて簡単に怪我や捻挫するし、悪くすれば骨折して動けなくなる事もある。特に鋭利な破片でケガをしないよう、日焼けしすぎないよう帽子や手袋、服で肌の露出を減らす事も重要だ。一人なんだから、ここから移動するにはそれなりの注意をするしかないと思ったんだよ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 何とか一晩を過ごしたけど、眠りは浅かったな。何も来なかったけど、中々寝付かれなかったりしたが夜空はキャンプ場でも見たこともない程の星が見えた。知らない星空だけど綺麗だった。もちろんリングがある月も入れてだが。日が昇り始めるまでそろそろか。朝は少し冷えたような気もしたが良い天気になりそうだ。出かけるか。車にはちゃんとカギかけてかないと、地震の時の道路と違うから緊急移動もなさそうだからね。 


 車はガレキが多いので無理と思ったんだ。仕方ないので徒歩で行く事にする。キャンプの時に使う愛用品のワークブーツを入れっぱなしにしといて良かった。トレッキングポールを積み忘れたのは、ちょっと残念だけど。途中で杖代わりになりそうな物を探せばいいか。ところが中々これと言ったものが無い。もしものことを考えてスコップを手にして進んでいるが、足場が悪いのでハラハラものだ。本当に、靴底が厚いタイプで良かった。こうして足や靴をガレキや水溜まりから守ることが重要だと思うんだ。

 ここは雨が降った感じはしないが、運転する時のスニーカーだったら足を守るためにポリ袋をかぶせた上で、板などの硬い物を靴底の下に敷いて緩まないようヒモで縛らないと。釘なんかあったら、踏み抜かないとも限らないかね。トレッキングポールがあれば確かに歩きやすいけど、あれはアルミだからな。ひょっとして何か出てくるかもしれんからな。クマみたいなのがいたら嫌だなー。


 平坦だが、ガレキだらけの地面が続く道だったところを西?に向かう。西かどうかは確定できないけど、見えて来た城壁の手前には土塁に加え半分埋まった空掘らしいものがあった。ウーン、煤けて崩れた外壁だ。考えると城壁があった世界なんて危ないよな。燃えた跡があるとすれば、戦がここであったかもしれない。それに、溶けたような跡があるが、石が溶けるような状態ってどうなんだ。


 続いて城門のような物に近づいていく。ガレキに半ば埋まった城門までの見失ったと思った道を見つけた時はほっとした。崩れかけた黒焦げの門をくぐり抜けて広場の様な場所に入る。慎重に足を進めていた為か、城門みたいな所に着くまで随分と時間が経っているのに気がついた。城門に至る100メートルは、ガレキが大きくてどかすのはまず無理だろう。歩いてくるだけでも大変だったし。


 やっぱりこんな道じゃ、とても車で移動なんて無理だな。バックパックを背負いなおして、スコップを杖代わりにして城壁の階段だったものを登り出した。

「上まで登れるかな?」

 城壁の上までは20メートル以上はありそうで、おそらくビルの7・8階建て位はあるよな。下の方は半ば埋もれている所も結構あるんだ。横の方行には、煤けて崩れた外壁もだが次の城門までずっと城壁が続いている。城壁の頂上では観測台が建てられていたような台座が見える。いま登っている城壁の外側はほぼ垂直に立っていて、50メーター置き位に急な階段が壁に沿って付けられている。

「階段の段差が40センチ位はあるぞ。ホント、人間用なのか? コロッセオみたいな石作りだな」


 段差があり過ぎるので足を上げるのがきつい。息継ぎしながら城壁の上にたどり着いたが、城壁の幅は5メートル近くありそうだ。城壁の上に立って外を見ると、最初に目に入ってきたのは3キロ程向こうにある2番目の城壁だ。その奥にもう一つ壁が辛うじて見えている。外に行くにつれて城壁は段々と低く作られているようだ。ウーン、だとするとここは三重の城壁に囲まれていたのだろうか? 焦げ跡の有る三重の城壁だなんて、いったい何から守っていたんだろう?


 お気に入りの単眼鏡を取り出して見る。単眼鏡はバードウォッチングに使っている愛用品なんだ。それはともかく目に飛び込んできたのは、城壁の外に広がったモンゴルのような大草原だった。その8~10キロほど向うには、木々の繁る森がある。

「いや、モンゴル? 行ったことないけど、草原かー」


 城壁の向こうは草原が広がっていて、所々崩れてはいるが恐らく街道だったんだろうという道がある。その近くには壊れているように見えるがレンガ造りにみえるけど? 赤茶けた人工物も混じっているな。間隔を空けて纏まってあるところを見ると、何かの道路施設だったのかもしれない。城壁の上からなので、思ったより遠くが見る事が出来た。その時、廻りを見渡して気が付いた。やっぱり誰もいないぞ。なんてことだ、鳥も動物もいないみたいだ。ここまで1キロ以上来たと思うが、これどうなるんだ。ウーン、門の周辺を確認できたので、車まで引き返す事にした。


「フムゥ……。車を城壁まで動かすのは大変だろうな」

恐らくこの遺跡の様な都市は、何処へ行っても似たようなもんだろう。くよくよしても、しょうがないか。残念だが、ここに車を置いて移動するしかないな。

「移動をする前に、持ち物チェックをしてかないと」

 バイトで納品するはずだった災害備蓄用品と水が非常にありがたい。これだけは何としても持ってかないと。それにキャンプ用品一式もある事だし、水道水のポリタンク18Lサイズが二個を積んどいたのはラッキーだった。これなんか積んどくと、キャンプ場の水場まで遠い時も結構あるので用意しておくと楽ちんなんだ。水道水は安上がりだし。


 水は一日に必要だと言われているのが4リットルだったかな。2.5リットル+保存食等と生活用水で1.5リットル位か? 保存水500CC24本入り10箱と防災持ち出し袋のペットボトルがあってポリタンク分も足せる。水の総量計算で合計160Lちょっと。一日4Lでは足りないかもしれないが約40日分はある。節約すればもう少しあると思う。災害備蓄の食料×10箱に、不要だからと防災セット二袋を貰って良かった。キャンプ用品が有って、買ったばかりの折りたたみ自転車は車に積みぱっなしだったし。これなんかは幸運そのものだ。


 災害備蓄食料の取説には、主食のアルファ米やラーメンやうどん、おかずのハンバーグやいわしの煮付、乾燥餅やビスケットなどお菓子類などバラエティの富んだ九食分の防災セット。これ一セットあれば安心。とある段ボール箱10箱で九十食。飽きなければ一か月はOK。こんな時じゃ無ければ一週間もしない内に飽きるよな。だげど水と食料はある訳だ。


 貰ったリュックタイプの防災持ち出し袋。36点セットが二個入っているダンボールが一箱。内容はというと、 災害マニュアル、手回し充電ラジオライト、モバイルチャージャー、小型LEDランタン、単三電池が4本、カンパン一缶、ようかん、保存水500CCが三本、給水バック等……「重量は一個 4.5キロです。避難時に必要な品を厳選した、成人一人分用のセットです。二セット以上のご用意をおススメしております」とある。

「これ、期待して良かったのか? 貰い物に文句を言うのは何だけど。キャンパーなら普通に持っている小物も多い。こういうのは自分でセットを作った方が良いじゃないのかな?」


 まあ、栄養的には? だが、40日分位の食糧と水がある。加えてスーパーで買った食材もある。積みっぱなしのキャンプ用品一式ともちろんスマホと車一台。ガソリンが目盛の約半分。折りたたみ式の多機能スコップと90センチの重い鉄のバール。お気に入りのダッチオーブンも鉄製で重いので、持って行くならバールの方だろうな。現代人の俺には運べる荷物の量なんて限られている。置いておく物も考えないと動けなくなるぞ。


 キャンプに使っている手回しライトには充電機能が付いているし、ソラーバッテリーも持って来ている。あると便利なのがガストーチ。ライターも良いが炭や薪に火をつける時に大活躍。調理に使う有名メーカーのカセットガスとボンベが5缶。バーナーは高熱効率で風防兼用ゴトク構造だから風が強くても使える。ポイズンリムーバー、虫に刺された時はとりあえずリムーバー使いまくりだ。


 持っていて良かったお値段2980円のソーラー充電で光るランタン。防水仕様になっているので雨でも問題のなし。キャンプでは、雨も降るし朝露も降りるので外に出しておいても防水だと気が楽。キャンプアニメのブルーレイBOX。メタルマッチ、この二つは使わないけどロマンが溢れているので。そして、アウトドア用の荷重100キロ耐用キャリーカート。これ最近お子様を入れて運んでいるのをよく見るけど。それに折りたたみ自転車。


 60L程度のバックパックには軽量、コンパクトに収納できる道具を、お泊りの必要最低限のアイテムをすべて納めてある。信じられないかもしれないが、山用のテント・シュラフ・テーブル・チェア、折りたたむとすべて背中に背負えるんだ。車でキャンプ場近くまで移動して、後は歩きのパターンも多かったので持っている。今は車なので軽い山用のテントと、居住性の重視したキャンプ用の自立型テントの二種を用意しているけど。


 タープは三枚、雨や日よけに何かと役立つし、強風で無ければ風除けにも使える。積みっぱなしだけど、車から張り出したように使うと便利。大・中・小とセールでまとめ買いしたが大きいのは重いので置いておこう。重なっても使えるものは車に置いていけば良いんだ。但し、燃料系のガスや着火剤は夏場だけでなく車内温度に注意しないとね。良い子も悪い子もしないでね。なお、太っ腹なキャンプ場では、入場料を払えば落ちている枝葉を薪木にしてもお金がいらない。ウッドストーブ使っているからね。まき代も、塵も積もればだからね。


 そして、キャンプツーリンングも人気なキャンプスタイル。バイクも良いけど自転車で風を感じながら走りと、自然の中でのんびりキャンプを楽しめる。より遠くまでというのも嬉しいものだ。折り畳み自転車を買ってからはフットワークが軽くなり、近場のスーパーの日替わり弁当の買い出しも、うんと楽になりセール品も狙えるようになった。だんだんソロキャンプから離れて行っている気はしてたが。


 転生なら知識以外は何も無くてもしょうがないが、キャンプ用品一式+あれこれなので恵まれた転移? になるのかな。ウェブ小説読愛好家として、スマホにはダウンロードしまくったネットの無料小説。貧乏性のせいか読んでも削除せず残してある。これが一番のチートかも。これだけの物があるだけでもすぐにはゲームオーバーにはならないだろう。本当に神様仏様有難うございます。

(アー。お地蔵様かもしれませんが、倒してしてしまいました。あれは鹿が急に出てきたためで、殺生をしなくて良かった。ご免なさい。仕方なかったとお思い下さい)


 ※ ※ ※ ※ ※


「移動するにしても、目印を置いてかないとな」

 ここに来た場所が、分かるようにしてかないと。それに、また転移があるかどうか確かめたいしな。土色の変わった境界の様な場所にもケルンを作っておこう。来た場所の中心に石柱を立て名前と日付のメモと某レンタル会員カードをスーパーのカシャカシャ袋に入れて中に置く。免許証や保険証は戻れたら使かうもんね。某レンタルカードは使わないだろうし、プラスチックなら腐らないだろうし。車の前の石を動かしてケルンを作るのに結構時間がかってしまった。


「何とか出来たけど、ガレキで組んだ積み石のケルンなので標というより慰霊塔みたいだ。マァ良いか。疲れたー。持ち物チェックにケルン造り。バールも良いけどスコップ。ほんと役立つわ、キャンパーなら一人に一個必需品だな」

 ケルンが無くなるか、変化があれば、いつの日か帰れるかと希望も持てる。何としても、生き抜かなきゃ。今はまだ、日本には心残りがあるからな。深夜アニメ番組、今なら録画容量足りると思うんだけど? 帰りたいなー。

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