43.ゲームの国②

『なんだと…?』


ナイトがどこかの国の王?否、おそらくブラフ。ただのプレイヤーが王の訳がない。


だが場の雰囲気が変わった。セシリアは眉をひそめ、エドワーズ王も眉とか耳とか色々ひそめる。どうやらこの国のNPCは、立場を重んじているのかもしれない。


ワールドゲーム…。ゲームである以上、どんな無理ゲーに見えても攻略法はあるということか。


『俺は、ハヤクカエリタイ王国のハナシヲキ家の次期トップ。ナイト・ハナシヲキという者だ』


それを聞いた俺は眉をひそめた。通るものか、そんな付け焼き刃の王国が。そんな目でナイトを見るが、ナイトは自信に満ちた顔で奴らを見据えていた。


『ぐふっ』


笑うなタルト、嘘がバレる。ここは俺がフォローするしかない。命がかかっているのだ。


「あ、ぐふっていうのは、ロボットの名前です。ハヤクカエリタイ王国の守護兵[ガーディアン]です。タルトは気分が高揚して、我が国の守護兵の名前を言ってしまったんです、すみません」


我ながら、完璧なフォローである。


『わしらの無礼を許してくれ、ナイト・ハナシヲキよ』


王が謝罪した。


セシリアは歯軋りをしながら、剣を鞘に収めた。王が認めた故、これ以上は管轄外なのだ。


『問題ないさ。知りようがなかったのだからしょうがないじゃないか』


王が一歩前に出る。


『ふむ。礼を言う。そうじゃ、一応調べておこう。〈全能の知識書〉』


王の前に金色の粒子を放つ光の分厚い本が現れ浮遊する。王が指先をサッと右へ動かすと、パララララとページが捲れていく。


なんということだ。


王のさっきの謝罪はただのパフォーマンス。全能の知識書という名前から考えて、おそらくあらゆる情報が載っている、そんなチートじみた魔法に違いない。


ナイト、どうする…!?嘘がバレる!!


そんな目でナイトを見ると、ナイトは白目を剥いていた。


思い出せ、俺!これは、俺たちの間だけで伝わる事前に取り決めていたジェスチャー、暗号だ。


「たしか白目は…」


タルトが小声で言う。


『あれは、やばいとき、絶望のジェスチャーなの』


「そんなの…決めなくてもわかるぞ…」


間もなく王に嘘が、バレる。


2日以内にワールドゲームから脱出しなければならないのに、王と戦うことになりでもしたら…。もしかして死んだら、帰れるのか?いや、やはり胸騒ぎがする。


とにかく今はリミットギリギリまで最善を尽くしたい。即ち、ここから脱出して安全にログアウトすることだ。


パラパラとページが捲られていく。もうすぐ最後のページが来る。どうやらハヤクカエリタイ王国の情報が見つからないらしい。


『やはりゼウスの書は凄まじい…』


王を守るように鞘に手を添えながら、俺たちを睨んでいるセシリアが呟いた。


『そしてこれを扱える王の器も魔力も。嘘がバレた時、それが貴様らの最後だ!』


セシリアが鞘に添えた手にググッと力が入る。


どこかで待機していた大量の兵士たちも部屋に入ってくる。


『ふむ』


王が終盤のページを見て呟く。


『あった』


セシリア不満そうな顔で固まる。大量の兵士たちも騒つく。


「…ぐふもいましたか?」


『ぐふもいた』


血気盛んな兵士たちも、不満そうな顔で固まる。


『お主らは無罪じゃ。孤立せし王ならば、許される。無実は証明された』








案内されたのは高級ホテルのような豪華な部屋。


「わけがわからない」


その一言に尽きた。


「まるでチグハグ、何が起きているのかもわからないのに、俺の名前も紛らわしい。みんな聞いてくれ、俺の名前は鈴木じゃなくって凪っていうんだ」


『よろしく凪』

『よろしくね。凪くん』


とにかく俺たちは早急に始まりの町に帰る必要がある。エドワーズ王は間もなくやってくる。協力してくれるというから、どうにか帰れるはずだ。


先ずは王の話を聞いて、冷静に進めるのだ。


トントン


扉のノック音がする。


『王じゃ』


エドワーズ王が入室する。タルトはベッドに潜った。


『我が国の分析魔法は完璧ではなくてな。様々な反応を測定して真実を分析するために、色々と試したこと、あらためて謝ろう』


『それで?最終的にどうだったんだよ?』


『一貫して真に迫っていた。やはり演技ではない。お主らは共通の敵を持つ同志であり、哀れなり』

「あの、共通の敵って一体なんなんだ?俺たちは早く始まりの町に一旦帰りたいだけで…」


『それじゃ』


王の鋭い眼光が、俺を捉える。ナイトは目を細めた。


『共通の敵・・・それは、西大陸に突如として出現した大型の古代アーティファクト。お主らの本当の出身地、始まりの町じゃ』

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