42.ゲームの国①

◇◇◇◇◇◇



俺たちは白を基調とした部屋、洋風で上品な一室にいた。偽名で鈴木を名乗った俺こと″凪″の周りには、共に捕らえられていたナイトとタルト、そして金の王冠を被った白いひげの男性と、顔以外に鎧を纏っている金髪の女性騎士が立っていた。金色の髪なので、おそらくパリピに違いない。


脇に「清掃中」と書かれた板を挟んで立っているナイトが責めるように言った。


『ったく、他にやり方はなかったのか?寿命が縮まったぜ』


「俺も心臓が縮まった」


そんな俺たちを見て、女騎士が腰に携えた剣に手をかけて叫ぶ。


『貴様ら、エドワーズ様に対してあまりにも無礼だ!』


『よさぬか、セシリア』


『ですが!エドワーズ様は王ですよ!王への失礼は、わが国への失礼です』


『セシリア、落ち着け』

「落ち着け」


王がギラりとセシリアを睨むと、セシリアはハッとして黙り込む。俺も一緒にギラりと睨んだ。


『紹介が遅れたな。わしは人族の王、エドワーズじゃ。貴殿らには失礼なことをしたが、敵ではないことを確認するには、全て必要なことだった…。一発でわかる嘘発見器でもあれば良かったんじゃがな』


彼らの話によると、俺たちを捕まえて戦わせたのは、どうやら俺たちが嘘をついてないかどうかを試すためだったという。魔法で俺たちの脳や会話を観測しながら、それらの反応を見ることによって、極めて精度の高い嘘発見機のようなことができるらしい。


俺たちの戦闘は、タルトとナイトが戻ってきてくれたタイミングでNPCたちの判断によって終わったのだ。最後に戦っていた騎士も『ビターンビターンしすぎて悪かった。もうしない』と言ってくれた。必要な行動だったとしても、どう考えてもあれはやりすぎである。


『そして結果は[真]。貴殿らは決して、我らに嘘はついていなかった』


つまりそれは、この世界がゲームで、俺たちはゲームの外から来たプレイヤーということを示す。


『つまり貴殿らは・・・


    薬をやっておる』


「え?」


セシリアが付け加えるように、ドヤ顔で言った。


『だってそうだろう。ここ以外の世界があると思わせるような″魔法″をかけられた痕跡に関しては見当たらなかった。それなのに、本気でこことは別の場所から来たといいよる。つまり貴様らはもう、集団で薬をやっていたということだ』


『やっぱり。私は、薬をやっていた…?』


『落ち着けタルト、そんな訳ない』


「やばたにえん」


『薬をやっている者はみな、そういうのじゃ』


え、マジか。やば。


『しかし、我らにとってそんなことはどうでもよい。貴殿らに、力を貸してほしいじゃ』


『待て』


ナイトがエドワーズ王に尋ねた。


『誤認の魔法がかけられた痕跡はないと言ってたが、他の痕跡はあったとでも言っているのか』


たしかに、俺もその部分は少し引っかかった。


『…ああ、我らは仲間じゃ。信頼の証に答えよう。貴殿らは漂流者は、共通して特殊な力を持っている。それは、ステイタスという魔法じゃ。まずはそれを開いて頂きたい』


漂流者…俺たちプレイヤーのことだろう。ていうか最近のNPCはそういうシステムの部分も把握してるのか、いいのか運営。


それはともかく、言われた通り俺とタルトはステイタスを開く。


『そして[スキル]の部分に注目してほしい』


俺のスキル一覧には、[気配探知、戦力測定、魔物図鑑、盾術・耐久、盾術・頑丈、剣術、アイテムボックス]が並んでいた。


『そこに、隠されているスキルがある』


エドワーズ王が呪文をむにゃむにゃ唱えると、


[冷静]


というスキルが追加された。いや、表示されたと言うべきなのかもしれない。


『これがなんなの?なんでこんな普通のスキルがわざわざ隠されてたの』


不思議そうな表情でそれを見るタルトを、セシリアは嘲笑する。


『エドワーズ様!やはりこいつらはバギョバギョですね!そんなこともわからないとは』


バギョバギョ…。どうやら馬鹿にしている様子だが、一部意味不明な単語がある。この部屋は自動翻訳魔法がかかっているらしいが、翻訳の精度が心配になってきた。


それにナイトが言い返す。


『いつ俺がわからないと言った?それはお前なのではないか?』


『なんだと!』


『ナイト、どういうこと…?』


『冷静、勇気、恐怖耐性、などのスキルがもしあるのなら、それは人間の脳内物質に直接作用していることになる。控えめに言って頭がおかしいスキルだ』


『くぅぅ』


たしかにそうだ。冷静がついていたのは、リアルな仮想世界で生き物を殺しても動揺しにくく円滑なゲームができるように、全プレイヤーに付与されていたのか?ただ、こんなの…


『そうじゃ。貴殿らは、何かに利用されていた。そしてわしらの敵は貴殿らの敵でもある。敵は同じなのだ。わしらに協力するのじゃ』


エドワーズ王は突然ドッと圧を放ちながら、俺たちにそう言ってきた。濁流に流される感覚を感じる。


『こ、怖い…。すごい圧…』


タルトが怯えている。たしかにすごい圧だ。ナイトが王に尋ねる。


『…あんたは、あんたが要求している協力ってのは、こういう関係ってことであってるか?』


『ふむ…こういう?』


エドワーズ王が首を傾げる。セシリアが叫ぶ。


『貴様!王に対して異論があるのか!?エドワード様に無礼だぞ!』


『王だから何なんだ?王だと対等じゃないのか?』


『当たり前だろう!』


『実は俺も王だ』


ナイトはそう言い切った。

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