六台
家族と一緒に出かけた友人以外にこの話を知っている人間はいない。
それに左と言うのが一番のポイントだ。
大雨の日に友人四人と車で出かけた僕は下りの坂道でスピードが出ているにも関わらず、余所見をしてしまい、目の前の車が急ブレーキをかけて反対側のファミレスに入ろうとしたのだ。
ブレーキも間に合わない。反対車線に出ることもできない状況で、ハンドルを左に切って歩道に乗り上げながら事故を避けた。
僕は自分で判断すると言うよりも何かに促されるようにハンドルを左に切った。
その後に二人でドライブした時に悪友は
「よく“左”にハンドル切ったな。普通は自分の命を守ろうとするんだよ。だから危険から遠ざかろうとしてハンドルを右に切るんだぜ」
と僕に言ったのだ。
「稀に大事にされた道具は、長い年月を経なくても精霊が宿ることがあります。貴方が感じている気配は最初のお車でしょう。先程の見せていただいた色と同じですから。とても大事になさっていたのですね。そうでなければ、貴方を守っては下さいませんよ」
「守ってって。事故に遭いそうになったり」
「遭いそう、で実際に事故に遭っていらっしゃいますか?」
「遭ってません。でも、フロントガラスが割れたり……」
「それは貴方が、お祓いをなさって遠ざけたからです。それだけで済んだことに感謝すべきですわ。お祓いがどれだけ苦痛をもたらすことか。それでも守ろうとしていらっしゃったから、その程度で済んだのです」
今度は、僕が絶句。と言うか悪友も完全に沈黙してしまった。
「わたくしの話をお聞きになってお祓いをなさるかどうかは貴方がお決め下さい。用件は済みましたので、わたくしはこれで失礼致します」
立ち上がりお辞儀をした女の子は、もう僕のことなど忘れてしまったような顔で控え室を出て行った。
「どうする? お祓いするか?」
青ざめた悪友が僕の方を見ながら聞いてくる。
答えようとした僕の言葉を遮るように女の子の声が聞こえた。
「えっ、エレベーターがあるのですか? わたくしの階段を登った努力は……」
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