五台

「お待たせして申し訳ございません」

 控え室に通された僕らの前で正座をしたその小さな女の子は両手を付いて綺麗な土下座をした。

 あれからさらに待って息も絶え絶えに境内に上がって来た小さい女の子を見て、子供にこの階段にはきついよなぁと思っていると

「わた…くし……こう……こうせい…ですから」

 まるで考えが分かるかのように小さい自称女子高生は言った。

 その後、巫女装束の女性に引きずられるように運ばれて、僕らは控え室に案内され、今に至ると言う訳だ。

「何か、お話があるのではありませんでしたか」

 困っている僕を見かねたのか宮司さんが助け舟を出してくれる。

「そうでした」

 顔を上げた小さい女の子の顔に見覚えがあるような……

「お祓いを止めていただけませんでしょうか」

 横断歩道だ。横断歩道を渡っていて、こっちを見て微笑んだ女の子だ。

「これ以上、いじめないでいただきたいのです」

「いじめるって…僕はいじめなんてしたことないよ?」

「付喪神をご存知でしょうか」

「はい、はい! 俺、知ってまーす」

 話に入りたかったのか悪友が手を上げる。

「あれでしょ。長く使われた道具とかに神様が宿るってやつ。それとお祓いが何の関係が――あー、まさかあの車に付喪神がいるってそんな話とか」

「おっしゃるとおりです」

「ぶはっ!」

 悪友は盛大に吹き出して笑い出した。

 僕は、あっけにとられたが、小さい自称女子高生はともかく宮司さんも巫女装束の女性の表情には少しも笑みは浮かんでいない。

「どうして、お笑いになるのですか?」

「だってさぁ。こいつがそんなに長く物を使ってるはずないじゃん。それに付喪神なんて信じろって言われてもねぇ」

「運転しない方の席の後ろの席」

「えっ…」

 僕は小さい自称女子高生の顔を見てしまう。

 何も話していないのに僕が気配を感じる場所をどうして知ってるんだ。

「銀の色の上から青を塗った色の…お車……でしょうか」

 この小さい自称女子高生がこっちを見た時は――二台目だからシルバーだ。

「こっ、この色かな」

 僕はスマホに撮っておいた一台目の車の画像データを見せた。

「ああ、こちらです。写真ではありませんのに、こうして見ることができるのですか。最近の機械はすごいのですね」

「……そんなの調べたかもしれないじゃん」

 驚いている僕を見ながら、にやっと笑って悪友が言う。

「大雨の日、五人でお出かけになりませんでしたか?」

気にした様子も無く小さい自称女子高生は続けた。

「前のお車が急に止まって、ぶつかりそうになったのを左にお避けになった」

 それを聞いて驚くのは悪友の番だった。

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