△4九角鷹《かくおう》まで、十八手にて 鬼砕 薙矢の勝ち


 身体に漲るのは、どうにかなっちゃいそうなくらいの、全能感。


「こまい変身しようと関係ねえ、ぶち潰すッ!!」


 一瞬後、我に返った「竪行ピンク」が突進してきつつ、その太い筋肉の張った腕を振り抜いて来るのを。


「……」


 上空へひらり舞い上がりその背後へ回り込むと、


「鷹のように舞い……蜂のように刺す……『蜂角鷹ホーニング=ホーク=スティンガー』ぁぁぁぁぁぁッ!!」


 上空に浮遊したまま、腕組みをした私の周囲に、例のあの「トラバサミ」のような形状の「力のビジョン」がいくつも現出してくる。


「ん……ガアアアアアァアァァアアア……っ!!」


 それらは無秩序に飛び回ると、振り払おうとする竪行の両腕をかいくぐり、その肥大したピンクの筋肉のあちこちに喰らい付いていくのであった。


「そこに居ながらにして、前方のマス目を屠れる……それが能力、「居食いぐい」の能力……」


 私の今のオマージュ+イマジネーションは完璧で無限だ。どんどん追い込んでいく、竪行……兎宿原さんを。しかし、


「こざかしいぃぃぃ……こうなったら、盤ごと踏みつぶしてくれるわぁッ!!」


 お約束が如くにそのピンクの巨体はさらなる巨大化パンプアップを始めるわけで。ずずずと見る間に大きくなっていったその姿。全長……20mくらい? 結構な迫力。でも、


<ナヤ……こっちの準備はOK>


 覆面マスク内に落ち着いた声が。盤面が見えてなくても局面は見えている沖島さんが、冷静にそう告げてきてくれたことで、私は仲間とつながっていることを再認識する。そして下の名前で呼んでくれたことが、ちょっと嬉しい私もいたりして。でも、


<ここから先は盤面見る必要って無しね……なら『成る』。んんんんん、きたきたァッ!!ボクは、『ショッキング=ピンク飛鹿ひろく』ちゃんッ!!>


 「盲」の字が書かれた黒いバイザーを取り去った沖島さん……ミユの身体が輝くと、現出してきたチタンのような金属質感の「パーツ」が覆っていくけど。さらにのけったいな属性も付与されてるよね……そして、


「『スカーレット奔王ほんおう』も無論健在だ……あれしきのぶちかまし程度……常に組み技主体格闘馬鹿女フウカと乱取っている我にとっては、児戯に等しい……」


 ミロカもいつもの調子……大事が無くて本当によかった。そして三人の意識がひとところでつながったような、そんな感覚。遥か上空からは、「鳳凰」、「猛豹」、「盲虎」をかたどった三体の「メカ」……だけじゃなく「龍馬」「飛鹿」「角鷹」をも飛来。うん、もう何でもありだよ。でもそれが心地よい。巨大化竪行が暴れ回る盤上で、ミロカ、ミユとバイザー越しに視線を絡ませ、頷き合う。


「「「……摩訶大合体ッ!!!」」」


 三人の声がひとつに。そして、


「「「……『ダイトラ×ウマ×鹿シカ=ショウギ=豹鳳鷹ヒョホォォォォオオウ』ッ、爆誕ッ!!」」」


 六つのメカは空中で複雑に絡み合うと、竪行も見守る中、これぞ、というような「普通」にロボしているロボへと変形合体を遂げていく。のはいいんだけど名前ェ……瞬間、私たちの身体はどう説明していいか分からない摩訶不思議パワーによって、その「操縦席」へと誘われていたのだった……


「ハッタリだッ!! そんなこけおどしッ!! それにまだ私の方がデカい、リーチも長……」


 計ったかのように硬直から同時に解け合った、巨大兎宿原さんと、私たちの搭乗した超絶合体ロボがいつの間にか重力をも無視した空間で、突っ込み交錯していく……ッ!!


「……『長尺大将棋ブレード』」


 もう私の支配下にはこのロボは無いみたい……ミロカの押し殺した、しかし喜悦も含んだかに思える声と共に、ロボのうなじに回された右手が、どういう機構になっているかは分からないけど、するすると棒状のものを抜き出でさせるのであるけど。


ウシュ「えええずるいッ!! 得物ってえええッ!! 長尺ってええええッ!!」


ミロ「必殺技は剣撃と相場は決まっている。そして貴様の運命もここで決まった」


ミユ「ろろろ六身ろくしん合体/合体技キター……ッ!!」


ナヤ「うんうんうんもういいや……あのぉー、もう終わろう?」


 いかにもなエフェクトを放ちながら、すれ違いざまに両断した兎宿原さんの動きが一瞬止まる。決着……なった?


ミユ「……兎宿原さん……勝ち続ける人間なんていない……将棋も人生も、『負け』を認めてからが本番……自分に向き合って、自分に打ち勝つ……『投了』は決して負けを嘆く言葉なんかじゃなく……負けを認めて、明日へ繋ぐ、魂の決意表明だよ……だから、敗北を決して嫌わないで、恐れないで」


ウシュ「冷静に諭すように言ってくるけど、それ曇りない精神のマウントぉぉ……!! で、でも負けだ私の……ッ!! 投了級だもの……将棋も、メンタルも、何もかもが……ッ!! 『完全敗北』……こ、ここに、わたくし兎宿原ハタキはぁぁあああッ!! 敗北を宣言いたしますぅぅぅッ!! もう許してぇッ!! ほっといて放してどっか行って無視してェェエエエエエエッ!!」


 そんな、断末魔のような絶叫と共に、この「暗黒空間」にもぴしりぴしりと亀裂が入り。


「……!!」


 次の瞬間、私の意識はぷっつりと断


……


「……ナヤ大丈夫?」


 ミロカの柔らかな声に、元の店内に戻って来ていたことを悟る。私を見下ろしてくる目は、ああ、いつもの、いつも通りのミロカだ。


 ふと横に目をやると、気絶してるらしき兎宿原さんを抱き起しているミユの姿も見え、少しほっとする。モリ少年は先ほどの続きとばかりに、またハンバーガーを両手で貪っているけど、常にカロリーを摂取してないと死ぬの?


「……」


 上を向いて寝ている、と感知した私は、座席ソファの上で、ミロカに膝枕されてたことに気付く。後頭部に感じる柔らかさ/あたたかさと、甘い、柑橘のような香りに包まれている。戻ってきた。すべてが戻ってきたみたいな、そんな空気感の中に、私もミロカもいるようで。


「ありがとミロカ、かばってくれて」


 自然と、自然な言葉が口をついて出て来ていた。私とミロカは自然に視線を合わせるのだけれど。


 刹那……だった……


「……べ、別にナヤを助けたわけじゃないんだからっ、ちょ、ちょっと××××したからって、それだけでカノジョ面しないでよねっ」


 あっるぇ~、またしても突拍子も無い謎属性が追加されているよ怖いよぅ……ミロカって、のっぴきならない事が自分の身に起きると、それをも飲み込んでから新たに一皮むけた自分に成って灰の中から甦るよね、まるで不死鳥フェニックスのように……まあそれはそれでいいんだけ↑れ→ど↓


 でも、んもぉぉう、つかれた。んもぉぉぉう限界だ……私は限界だ……


 真顔の無言で起き上がると、驚天動地な今日という日を今度こそ本当にシメようと、私は丁寧に革靴ローファーを脱いでから、あまり安定のよろしくないテーブルの上に登り立つ。そして、


「……も、もう混沌カオスなんてこりごりでござるよぉぅぅぅぅッ!!」


 そこからとうっとジャンプ。そして最高到達点でキメ顔&キメポーズ。店内の周囲のヒトたちからは、ええ……というような困惑の声が漏れ出てくるけど。


「……」

「……」


 着地した私はミロカと目を合わせると、何となくの笑っちゃいそうなくすぐったさに、吹き出すのを我慢するのに結構な顔の筋力を使わされてしまう。


(第二局:終)


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-Miloca awaken- 摩訶♡大戦隊 ダイ×ショウギ×レン×ジャー gaction9969 @gaction9969

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