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 わたくしのその最悪で最高の一日の記憶はここまでです。気づけばわたくしは知らない病院のベッドに居ました。


 起き上がるとすぐに、そこは精神科であることが分かりました。

 周りのベッドにいる人たちも皆、わたくしと同じ匂いがしたのですから。


 どうやらわたくしは事件から一週間も眠り続けたらしいのです。

 わたくしのベッドにお医者様が来てくださいました。


「お加減はいかがですか?」


 お医者様はきっとわたくしの全てを分かってらっしゃるのでしょう。あえて彼のことには触れませんでした。


「ええ、もう。最高です」


 わたくしは涙を流しながら言いました。

 お医者様はわたくしの肩を優しく叩くと、いつまでもここに居てよいと仰ってくださいました。


 だからわたくしは今、自分の病室のベッドでこのお手紙を書いております。でもそろそろ此処をおいとまするべきでしょう。わたくしは戻り、晒されるべきなのです、早くXに死刑を執行しろと騒ぎ立てる世間に。


『Xはどんな風に幼少期を過ごしたのか?』

『親は一体どんな教育をしてきたのか?』


 そんな好奇心からくる、答えてもどうしようもない質問に答え、世間の憂さ晴らしをするという役割をわたくしは担わなくてはいけません。


 Xへ怒りを持つ、事件に無関係な人間も結局は他人事ですから、わたくしが世間から叩かれ、自殺でもすればきっと満足するでしょう。問題は事件で被害を受けられた方々にわたくしがどう償えばよいかです。


 償うことが出来ないことぐらい、わたくしも分かっていますが、それでもわたくしが出来る最大限のことをしたいと思っております。


 ですから、わたくしは今からその最大限のことを実行しようと思います。

内容は言わないですが、皆さんがこの手紙をここまで読んでくださった頃には、もうわたくしはそれを実行した後でしょう。もしその実行しようとしていることが実行できていれば、の話ですが。


 どうか、わたくしの償いが成功していることを願います。


 最後に、貴重なあなたのお時間を使い、ここまで読んでくださった皆様に感謝いたします。どうかわたくしと、わたくしの愛する息子を恨み、憎み、そして心の底から呪ってください。馬鹿な母親だとわたくしを罵ってください。


 これからわたくしたちは地獄に堕ちますが、わたくしは、地獄で自分が最高に苦しんでいるように。


 どうかもう二度と、このような不幸がこの地球上におきないように。

 Xの行為によって、殺人はいかなる時も自分の判断で行ってはいけないものだと、正義も悪にも境界線がないことを、皆様お一人お一人が知ってくださいますように。


 この手紙が多くの人に知れ渡りますように。

 小佐田華さんのような優しい女の子を喰い物にする人間は全員、いなくなりますように。

 どうかわたくしの上記の最後の欲深い多くの願いが天に届き、世界が平和になりますよう、願っております。


 そして小佐田華さんのご親族の方へ、

 小佐田華さんのご冥福を、祈る資格がないと分かりながらも祈っております。こんなにXが非道なことをしておきながら、たったこれだけの謝罪しか記さないこと、そしてなによりも小佐田華さんの名前をこの手紙に出してしまったこと、なんとお詫びしたらよいのかわかりません。お名前を出したこと、それはわたくしが小佐田華さんのご親族へ直接詫びることが出来ず、彼女の死の真相を伝えることが出来なくなるかもしれないと思ったからです。


 わたくしの事情でたくさんの人に名前を知られてしまい、本当に申し訳ございません。

 怒りに震え、きっとここまで読んではないかもしれませんが、ここで謝罪をさせていただきます。


 どんなことをしても償えないほどの非道な人間が暴走し、自分の首を絞めようとしてこの手紙を書いたのだと、どうぞ憐れんでください。もうわたくしは正常な精神状態ではないのです。

 ここまで読んでくださり皆様、ありがとうございました。                           

                                    敬具

Xの母、松田裕子


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快楽 狐火 @loglog

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