それが冒険者というものじゃの

 面倒な事には首を突っ込みたくない。

 そこはアホエルフに同意する。

 だが、不愉快な仕事をさせられた分の仕返しはしてやりたい。先程すれ違った女が何を意図して教会に手を出したのかも、若干気になる。

 いや、もちろん私と同じ闇側の者であれば、光の神を祭る教会に思うところがあるのは理解できる。だが、面倒ならあえて触れる必要はないはずだし、邪魔ならば力で破壊すれば良い。あんな中途半端な嫌がらせで、果たして何がしたかったのだろうか。


 考え事をしながら部屋の前まで戻る。と、そこには疲れ切った様子でナサリアが廊下に座り込んでいた。

「遅いよ……こっちはくたくたなのに」

 私達の気配に気付き、顔を上げたナサリアは開口一番に不満を口にした。

「手続きご苦労じゃったの。じゃが、選んできた仕事は最後まで責任持たんといかんからの」

 嫌味を混ぜてやり込める。

「アレ持ってったんだから、もう苛めないでよ……。ってか、ギルドの証拠提示のとき、書類だけじゃ済まなくって、袋の開示を求められてさ……」

 諦め半分なのか、私の言葉に反発することも無く、ナサリアはため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。

「あんなもの見たら悲鳴が凄かっただろうねぇ」

 笑いながら、フィリアは鍵を開けて部屋に入ると、持っていた荷物を雑に放り投げた。

「そうだよ~、大変だったんだから。職員は卒倒するわ、支所長は吐くわ、周囲の人は蜘蛛の子を散らすように逃げていくわ……。知らずにやって来た魔法使いが捕獲されて、ギルドの外で袋ごと塵も残らないように、即刻焼却処分させられてたよ」

「あっはっは」

 フィリア的には終わった事だけに、ただの笑い話でしかないのだろう。

 私も続いて部屋に入ると、私はナサリアの背負い袋から着替えを取り出して、放り投げる。

「あちこち触らずに、着替えを持って、さっさと湯で汚れを落として来るんじゃぞ」

「ほ~い」

 着替えを受け取ると、ナサリアは疲れ切った様子でトボトボと廊下を歩いて行った。

 その背中を見送りながら、フィリアは苦笑する。

「気分転換を兼ねて、稼いだ金で明日は少し良い物食べるか」

「日銭で食う。それが冒険者というものじゃからの」

 フィリアの言葉に同意する。苦労した分、報われる事が有っていい。何となく、冒険者としての在り方が分かってきた気がする。


 その冒険者としての勘が謎の女には手を出すな、と言っている。反面、悪魔としての私が叩き潰せ、と言っている。

 どちらの声が大きいか、という話になるが。

 いずれにせよ今、私が悪魔として動けば、こやつらを巻き込みかねん。……こやつらが死のうがどうでも良いと思っていたのに、少し情が移ったか。

 私も甘くなったものだ、と自嘲する。

「少し、泳がせてみるかの……」

「……ん? 何を?」

「いや、ひとり言じゃ」

 仕掛けたものが奏効していないと判断するか、何者かによって除去されたと知れば、次の手を打って来るはず。まずはその出方を見るのが良いか。

 事と次第によっては、新たな依頼の種が出来るかもしれん。

「フフフフフフ……」

 その喧嘩、私が買ってやる。

「さっきから気持ち悪いぞ、つるぺた」

「ハーッハッハ!」

「だから、うるさいって!」

 たまには悪魔らしい高笑いをさせろ。

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