3章:依頼と知的好奇心を満たすものはどっちが重要か

馬鹿に馬鹿と言われとうない

 ナサリアを覗いた四人は、依頼を終えて宿に戻ると、温泉に直行した。

 すぐに身綺麗にしたいという衝動に駆られての事だ。あんなものを相手にしたのだから当然だが。

 今頃、ナサリアがギルドに持っていったもののおかげで、大騒ぎになっている事だろう。私としてはどうでもいい事なので気にはしない。

 気にかかるのは、誘引に使っていた石の方だ。


 湯に浸かりながら、頭を悩ませる。

 依頼自体は済んだのだし、原因も除去したのだから終了と言ってしまえばそれまでだ。しかし、あの石が意図的にあの場所に置かれたのだとすると、また教会に対して何らかの行動を起こすはずだ。

 悪魔と敵対するような位置づけに有る、教会という存在がどうなろうと知った事では無いが、私の知的好奇心が犯人を知りたいと欲している。

 魔力の波長は掴んでいるのだから、本人が近くに居れば、きっと分かるだろう。

「何を難しい顔してるのさ。お馬鹿のくせに」

 お湯を掻き分け、ポンコツエルフが泳ぐようにやってきた。

「馬鹿に馬鹿と言われとうない。……ちと、あの石の事を考えておったのじゃ」

「ああ、教会にあった石か。あれ……嫌な感じの波長だったねぇ」

「ポンコツでも魔力の波長が分かるのか?」

 意外な言葉に正直驚いた。魔法も使えないポンコツエルフだと思って居たが、実はその下地はしっかり有るのかもしれない。魔法が使えないのは、恐らく本人の努力不足か、教えた輩が悪かったかのどちらかだろう。

「んー、何となくね。人間の作り出す波長とはちょっと違う気がしたね」

「ふむ」

 そう、ポンコツエルフの言っている事は正しい。

 あれは人間やエルフなどではなく、私と同じ闇側の者の魔力波長に違いない。私に言わせれば、魔力の痕跡を残すなど、三流の仕事なのだが。

「つるぺた、あんまりお湯に浸かってると、のぼせるよ」

「この程度、大丈夫じゃが、たまには棒切れに付き合ってやるかの」

「べ、別に付き合わなくてもいいんだからねっ!」


 湯からあがり、さっさと着替え、部屋へと急ぐ。ナサリアが部屋の鍵を持っていない事を思い出したからだ。

「きっと、無駄乳は締め出されて怒っておるじゃろうの」

「結構、長湯したからねぇ」

 フィリアは余り悪いとは思っていないらしい。勝手に依頼を取ってきたナサリアに対して、まだ不満があるのだろう。いや、ムカデ退治の依頼を取ってこなかったことに対する怒りか?

「男共は戻っておらんのか?」

「まだじゃない? さっき、酔っ払いの歌声聞こえたでしょ。あれ、おっさんだよ」

「あ奴でも歌う事があるのか?」

 正直、驚いた。いや、意外すぎて絶句しそうなほどだ。おっさんが歌う姿など全く想像できなかった。

 その時、ひとりの女性とすれ違った。

「……気付いたか?」

 私は足を止めずに、僅かに振り返る。

「ん?」

 理解できていないように、フィリアが私の顔を見る。

「足を止めるな。奴が、あの魔力波長の主じゃ」

「……ああ、確かにそうだね」

 小声でやり取りをしたので、相手には気付かれた様子は無い。女は廊下を曲がり、姿を消した。

「あんた、普段から魔力波長拾ってて疲れない?」

「いんや、たまたまじゃ」

 フィリアにはそう答えたが、「たまたま」というのは嘘。悪魔である私は、魔力を持つ者が放つ波長を感知する能力がある。とはいえ、今のようにすれ違うような距離でしか感知できないのだが。

「どうする?」

「依頼がある訳じゃないし、危険な藪をつつくのは気乗りしないね」

 ポンコツのくせにたまにはマトモな事を言うではないか。

 さっきの女、間違いなく「人外さん」だしの。

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