なめられとるんかのう

「アルデリーゼ、この嬢ちゃん達も狩っていいのか?」

「あー、それはダメじゃ、一応…」

 いつもの私なら、許可するところだが、こやつらは一応、人間社会潜伏の土台になってもらうのと同時に、観察の対象でもある。今、無くなると、ちょいと困る。

「一応ってなにさ」

「一応は一応じゃ」

 後ろに隠れたままの、ポンコツエルフが口を尖らすが、相手にしている場合ではない。アウレリアドスの鎌に触れれば、魂を連れて行かれてしまう。ナサリアに恨みがないと言えば嘘になるが、ここで死神に連れて行かれるのも若干困る。ポンコツはどうでもいいが……。


「じゃあ、アルデリーゼの魂を連れて行こうか?」

 悪霊を一瞬で狩りつくし、アウレリアドスが舌なめずりする。

「冗談でもそういう事を言うな。狩るぞ……」

 眼光を鋭くし、睨みつけると死神は笑った。死神の中でも下級に属するアウレリアドスは、「神」という名がつくものの、実のところ私より弱い。

「その姿で言っても説得力ないんだがねぇ……。まあ、アルデリーゼの力は分かってる。逆らわないでおくさ」

 狩ったばかりの悪霊をお手玉のように弄びながら、薄ら笑いを浮かべる。

「薄気味悪い笑顔だわ……あんたの友達……」

 バカエルフが背後で身震いした。へっぽこの割には鋭いな。

「それじゃあ、役目も終わったし帰るとするよ。ああ、悪霊が集まってた原因は自分でなんとかしてくれ」

 そう言い残して死神は消えた。いや、召喚者の許可無く帰るってのはどうなのか。せめて周囲に散乱している骨をなんとかしていって欲しかった。私は後片付けなどやりたくないぞ。

「なめられとるんかのう……」

 私は深いため息をついた。


「んで、原因って何なのさ?」

 今まで陰に隠れていたへっぽこが、急に偉そうにし始めた。

「何でそんなに偉そうに出来るんじゃ?」

 私はへっぽこエルフをジト目で見る。

「アンタよか偉そうにはしてないよ」

「ほほー、では今まで何してた?」

「そ……壮大な策を練っていたのよ!」

 何も考えてなさそうな顔をしているのは、気のせいではないはずだ。

「私の陰でか?」

「な……何よ」

 私は大きなため息をついた。弄っていても面白そうだが、とりあえずは放っておこうと決めた。

「ナサリア、そこから三歩くらい右に歩いた所を掘ってみてくれんか?」

「なんでー?」

「悪霊が寄ってきていた原因がその辺りにあるはずじゃ」

 悪霊やスケルトン騒ぎで気付かなかったが、何やら私の悪魔センサーに引っかかるものがあるようだ。


 ナサリアは私の指示した辺りをしばらく掘っていたが、突然大きな声を上げた。

「何かあったー!」

「なになにー?」

 今まで見ているだけで何もしていなかったクズエルフが真っ先に駆け寄る。私も現物を見ようとゆっくりとその場へ向かう。

 ナサリアの指差す先には黒く濁った水晶のような物があった。

「どれどれ?」

 拾い上げようとダメエルフが手を伸ばす。

「おい、触ると死ぬぞ」

「うひゃ!」

 慌てて手を引っ込めるゴミエルフ。

「へっぽこよ、冗談じゃ」

 そう言うと、アホエルフは「む!」と言って私を睨む。当然、そんなものは気にしない。私は指差す先を覗き込む。

「おお、怨念水晶か」

「知ってるの?」

 ナサリアが剣でつつく。

「怨念を込めておくと、負のものを引き寄せる力を持つ。悪霊もこれに呼ばれたんじゃな。怨念の量がもう少し多かったらあの程度で済まなかったじゃろうな」

「詳しいね」

「こんなもん、悪ま……あくまでも、魔法使いの基礎知識みたいなもんじゃ」

 昔、これを使って悪戯したことがあるので、良く覚えている。

 というよりは……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る