考え物だ…

 派手に決めた割には、効果は今ひとつだった。

 骨を破壊したものの、本体にはさして効果が無かった様子。

 下手をすると悪霊を怒らせただけかもしれない。ナサリアもついでに怒っているが、どうでもいい。積もった恨みをぶつけただけ。悪魔にしては優しいじゃろ?

 雷の鞭を消し、後ろを見る。

「のうフィリア、お主は聖印的な物を持っておらんか? 有っても私に見せる必要は無いが…」

 最高神だの大地母神などの聖印を出されて、私が下手に触ろう物ならどうなるか分からん。本物で神力が強い物なら、火傷で済めば良い方だ。

「森の民が聖印なんて持ってる訳無いでしょうが」

「そりゃあ、もっともじゃの」

 かく言う私はそれに類する物を持っているが、ここで出したらマズイやつなので、黙っておく。

 出してから「破壊神ヴォルダーシャの印じゃよ、てへっ」とは言えない。

 きっと悪霊共にも効果は絶大なんじゃろうが……別の意味で。


 そもそも悪霊程度なら、普段は下僕にでもするところだが、今は人間の姿なのだからそうはいかない。

「光の精霊くらい呼べんのか、エルフのくせに…」

「エルフがみんな精霊呼べると思うのが間違いだよ。会話くらいならできるけど、私は精霊使いじゃないからね」

 言っている事は正しい。

 精霊を呼べるならとっくに呼んでいただろうし。

「お、いいこと思いついた」

「なに?」

「友人を呼ぶ」

 私がさっと指で宙をなぞると、黒く光る線が残る。そのまま魔法陣を描くと、ほの暗く発光する。

「サレリアタス・ロウファルタイト……古き我が友アウレリアドスよ求めに応じ、ここに出でよ!」

 詠唱が終了した瞬間、周囲の空気が変わる。

「なに? 何かわかんないけど、凄く嫌な予感がする。というか嫌な気配がする!」

 おう、鋭いの。

 とっておきの友人じゃ。


 魔法陣の中から、二本の手が伸びてきて、その端を掴む。

「よいしょー!」

 掛け声と共に、闇の気配を纏った男が魔法陣から飛び出した。

 黒髪に黒い服、すらりとした長身に金色に輝く妖しい目。

「久しぶりだなアルデリー……、なんだその格好?」

 男は私の姿を見るなり首を傾げた。

 ツッコミたい気持ちはよーく分かる。

「あー、細かい事はいい」

「全然細かくないぞ……。まあ、いいか……。それより魔法陣はもう少し大きく書けと前から言っているだろう。狭くて出るのが大変なんだからな」

「ああ、すまん。この体ではそれが精一杯じゃ」

「じゃあ何でそんな……」

 そう聞かれても、私も苦笑いするしかない。


「……だれ?」

 私の後ろでフィリアが固まっている。魔法陣にトラウマが残っているのかもしれん。それともこの男の持つ闇のオーラに気圧されているのか。

「俺は………アルデリーゼの友人だ」

 私が口元に指を当て目配せしたのに気付き、男は言葉を濁した。

 呼んだのは「お友達の死神ちゃんじゃ」とは絶対に言えない。

「アウレリアドス、あれの始末頼めるか?」

「あー、あれか。お安い御用だ。仕事のうちだしな」

 男はゆらりと動いた。

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