笑うに笑えん

 悪魔が悪霊退治とか笑うに笑えん。

 ため息をついたものの、よくよく考えてみたが。

「そういや私、悪霊に有効そうな魔法をあまり持っとらんのぅ…」

 火炎球ファイヤーボールあたりなら多少の効果は見込めるが、あれだけ数が多いと連発を覚悟しないといけない。

「うーーーーーむ」


「何かいい手ないの?」

 悩んでいて気付かなかったが、いつの間にやらフィリアが私の後ろに隠れるようにしゃがんでいた。

「なにしとるんじゃ、へっぽこ」

「うるさいな。弓だと骨に当てるの大変なんだから」

 偉そうに言う割には、隠れたまま動こうとしない。

「相手は骨ではないと言っておるじゃろ」

「そうなの?」

「聞いておらなんだのか? 悪霊の一種が骨を動かしておるだけじゃ」

「ふんふん、で?」

 自ら動く気配の無い、へっぽこエルフ。

「霊体相手だと有効な手段が無くてなあ……」

「じゃあ、何かいい付与エンチャント系ないの?」

「無い」

 悪魔に付与魔法なんぞ期待するな。

 攻撃魔法でドーン、ドカーン、バリバリってやってこそ悪魔じゃろ? って前にも似たような事考えた気がするな。


「ってか、ナサリア大丈夫?」

「押し付けておいて今更心配するのか?」

「…はて?」

 隠れてトボけるへっぽこエルフの姿に、私はため息をついた。

「まあ、骨使って追っかけまわしているだけだから、今のままなら問題ないじゃろ」

 おっさんの心配はせんのか、というツッコミはこの際置いておく。そんな台詞をフィリアに期待してもおらん。

「召喚するにしても相性良さそうなのストックに無いしのう……」

 たまには悪魔の拳で直接殴るか。いやいや、人間にはきっとそんな事できんから、すぐに身バレしてしまうな。

「のう、フィリア」

 後ろのへっぽこを見る。

「…なに?」

「ナサリアの胸の無駄肉から何か光線とか出んのかの?」

「出ないから無駄肉なんじゃない?」

「おお、なるほど!」

 私は妙に納得してポンと手を鳴らした。


「そこで見てないで何とかしてよーーーーー!」

「考えなしに行動するからじゃ、少しは反省したらええ」

「お子様が偉そう言うなー!」

 絶叫しつつも反論するナサリア。余裕があるではないか。

「む、何となく腹が立った。あやつを巻き込んでも構わんか……」

「まあ、死なない程度にね」

 私の陰に隠れているへっぽこエルフは、その行為を制止しようとはしない。

「止めなかった事、怒られても知らんぞ」

「……私は何も知らないもん」

 顔を背けて責任を拒否する。

「下級悪魔以下の卑怯者め…」

「何とでも言え…」

「全く……近頃のエルフときたら……」

「近頃ってなにさ、幼女のくせして」

 いちいち面倒臭い奴じゃ。

 私の年はだなぁ、……まあいい。

「走れ走れ、大気に集う怒りの力よ、我が手に収束しその猛威を振るえ、雷の鞭ライトニングウィップ!」

 腕の動きに合わせ、文字通り雷が長い鞭状にしなり、離れた場所に居る骨と霊体に直撃する。ついでに余波がナサリアの足元を襲う。

「あぶっ……!!!」

 激しく驚いた顔をして慌てて飛び退いたおかげで、ナサリアは直撃を避けたが、かなり肝を冷やしたに違いない。こちらを見て何か抗議をしたいようだが、あまりの事に言葉が出ない様子だった。

「イヒ……」

 背後から卑怯者の笑い声が聞こえた。

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