私のせいじゃないからな

 しばらくして、ようやくフィリアが目を覚ました。

「ん……、なんで私寝てたんだっけ?」

「……さあの?」

 視線を合わせるのは止めておこう。

「さあ、フィリアも目を覚ましたし、行きましょうか」

 ナサリアがそう促したが、フィリアはしきりに首を傾げている。

 私は知らんよ。私のせいじゃないからな。馬鹿犬が悪いんじゃ。

 悪魔だが、多少は心の中で言い訳くらいはしておく。

「もうすぐ日も暮れるな」

 久々におっさんが喋った。

 もともと日の光もあまり入らない森の中。薄暗さが増してきている。


「あれ、ワンちゃん呼び戻さなくていいの?」

「ああ、同じ方向だから良いじゃろ。奴も犬のはしくれ、何かゴブリンの集落にある食い物の臭いでも嗅ぎつけたんじゃろう」

 ナサリアがふんふんと頷く。

「ワンちゃん?」

 フィリアが訝しげな顔をする。

 倒れている間の事だから、全く分からんのだろうが地獄犬の名を出せば、封印して改ざんした記憶が戻ってしまうかもしれんので、迂闊な事は言えない。

 黙っておくに越した事は無い。後ろめたい事なんぞないぞ。

 悪魔じゃからな。後ろめたさなんぞ、微塵…くらいしか感じんのじゃ。


 襲撃に遇うこともなく、四人はゴブリンの集落に到着した。

 だが、襲ってくる気配も無ければ、待ち構えている様子もない。

 警戒しつつも集落に足を踏み入れたのだが、やはり気配が無い。

 住居のような物の数からすれば、20体近くはここで生活しているのだろうと考えられる。

「気配が無いね」

 訝しげにナサリアが周囲を眺める。

 ゴブリンの臭気に紛れて、血の臭いがする。

「こっちじゃ」

 私は臭いのする方向へ誘う。

 すると、そこには積み重ねられたゴブリンの死体と、自慢げに私を迎えるクロが居た。

「あー、そういう事か」

「なに?」

「暇だったから、ちょっと遊んじゃいました、じゃ」

「遊んで狩っちゃったってこと?」

 呆れたようにナサリアがため息をつく。

「そうじゃろうなあ。ついでにほれ、見てみぃ、あの褒めて褒めて感が……」

 横を見ると、フィリアが何かを呟きながら震えていた。

「……い…いぬ…こわい…いぬ…こわい…」

 おっと、意識の下でトラウマになって残っておるのかの。うん、私のせいじゃないからな。見なかった事にしよう。

「まあ、クロのおかげで余計な危険も無くなったし、討伐した証拠だけ取ったら、集落を燃やすか」

「…いぬ…こわい…」

「うん、誰からも文句が出なかった。承認ということだな」

 私の言葉にナサリアが苦笑いした。

 おっさんはどうでもよさそうだ。

「クロ、取り逃がしは無いか?」

「ワフン」

 なんじゃ、その自慢気な態度は。

 仕方がない、何か後で良いものでも食わせてやるかの。


 私はこの後、魔法で集落を燃やすと、雨雲を呼んで火を消した。

 唯一使える水の魔法なのは内緒じゃ。

 全てが終わった頃、もう日は完全に暮れていた。

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