驚かんのか

「おおう、ホントだった。ビックリしたー」

 ナサリアが感心したように言う。

「驚かんのか?」

「驚いたよ」

「やけにあっさりしておるな」

 もう少し驚くかと思っていただけに、この反応は予想外だった。

「まあ、ちっこいからね。大きさは普通の犬と変わらないもん。犬じゃないけど」

 ナサリアはいちいち想定外の反応をする。

 隣のおっさんは、……どうでもよさそうだ。

 本当に無関心というか、やる気が無いというか。呆れるところだ。

「こいつ、かわいいじゃろ?」

「かわいくはない」

 即答か。私の見方が悪魔的感性だというのか。クロは一般的に可愛いものなのではないか?

 そりゃあ、羽がないからワイバーンとか、ロックみたいに空飛べんよ。

 クラーケンみたいに足の数も多くないし、リヴァイアサンみたいに泳げんよ。

 けどな、黒くてヌルテカっとした感じとか、切れ長な目とか、立派な牙とか。

 かわいいじゃろ?

 結論。ナサリアの感性はズレている。


「ほんで、ゴブリンはどうしたのじゃ?」

「フィリアに呼ばれて戻る時に、追いかけてきたんだけど、謎の声のおかげで逃げて行っちゃったよ」

 謎の声? ああ、あれか。まあ、結果的に役に立ったのか。

「そうか。そいじゃ、そのフィリアを起こすとしようか。ナサリア任せた」

 私が意識失ってる間、操ってもいいんじゃがの。操り人形か、ネクロマンシー的な感じになるかもしれんからな。

「何か変な事考えてた?」

「いや、なんも考えておらんよ?」

 そっぽを向いて誤魔化す。

「ま、ちょいとくすぐれば起きるでしょ」


 しばしナサリアが悪戦苦闘するのを眺めつつ、座って待つ。

 おっさんはオーガから討伐の証拠となりそうなものを只今選別中だ。

 隣にはクロが尻尾を振って様子を眺めている。今にもじゃれつきそうな雰囲気だ。

「おっさん、なんかクロに妙に懐かれとるな」

「なんで?」

 ナサリアが振り返った。フィリアはまだ起きていない。

 お疲れなんじゃろう。咆哮で精神が焼き切れた訳ではない、と思うぞ。

「しらん。主人は私なんだが……おっさんの臭いか?」

「それとも食べ物に釣られてる? あの人を食べようとしてる?」

「あー、クロ。その焼けたのならちょっと食ってもいいぞ。不味そうだがな」

「…ワウ?」

 うわー、あからさまに嫌そうな顔したわ。不服従感丸出しじゃないか。

 ご主人様に向ける顔か、それは。

「ほんじゃ、そこに転がって寝ておるエルフが起きるまで、何か食い物探しに行っていいぞ。準備が出来たら呼ぶから勝手にしていていいぞ」

「ワフン!」

 嬉しそうに鼻を鳴らすと、風のように走っていった。

「あ、そっちは……」

 ナサリアが言いかける。

 ゴブリンの逃げた方向…じゃな。ま、いいか。

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