当たり前じゃろうが

 何やら横でフィリアが絶叫して腰を抜かしておるが気にせず行こう。

「ウオォォォォォォーーーン!」

 あ、この馬鹿犬、咆哮ハウリングしよった。

 真横に居た不幸なエルフが気絶した。

 ……まあ、そうじゃろうの。

 地獄犬の咆哮なんぞまともに聞いたのだから、気絶で済めばまだマシな方だろう。

 上半身を出し終えた辺りだが、余計な事をしてくれたもんだ。

「………こいつ、出すの止めておくか」

 慌てて私の顔を見る地獄犬。

「何故? みたいな顔するな。当たり前じゃろうが! ちっとは戻って反省しておれ!」

 拳骨をくれてやった後、魔法陣を反転させ、強制的に送還してやった。

「この際じゃ、誤魔化すためにあいつの子供でも呼んでおくか……」

 私は再度、小さな魔法陣を描き、そこから私が乗って丁度良い程の地獄犬を呼び出した。


 間もなくナサリアたちが戻ってきた。

 一応、ゴブリン共を引き連れて来るようなことは無かった。

 もしかしたら、ヘルハウンドの咆哮で逃げたのかもしれんが。

「何か、さっき物凄い禍々しい気配と、恐ろしい鳴き声がした気がするんだけど」

 ナサリアめ、意外と感性が鋭い。

「私は知らんよ? ああ、この棒切れは、この死体を見て気絶しただけじゃ」

 誤魔化すぞ。全力で誤魔化す。

「この死体、オーガ?」

「おうとも。私が倒した」

 気絶している間に、フィリアの記憶操作をしておいたから、大丈夫…なはずじゃ。

 悪い事なんぞしておらん。というか、悪魔が人間にとって悪い事をしたところで、何が問題なのじゃ?

 普通じゃろ?

「で、その横に居るのは何?」

「犬じゃ、どこからどう見てもただの黒い犬じゃ。狼などではない」

「うん、狼には見えないね……で、何?」

「……い…犬じゃ…」

「ふーん………」

 顔が怖いぞ。

「どこから連れて来たの?」

「お、おう、その辺に居たのを餌付けしたのじゃ」

「ふーん………」

 全く信じておらんなその目。

「ゴ…ゴブリン退治に役立つかと思ってな」

「ふーん………」

 あ、これ誤魔化せないやつじゃ……。

「本当の事言ったら怒るじゃろ?」

「おこらないよー?」

 いや、十分怒る寸前だ。

「これ…、私が呼び出した地獄犬じゃ……」

「ん? もう一回言ってみて。良く聞き取れなかった」

 嘘をつけ。今、顔色変わったじゃろ。

「へ・る・は・う・ん・ど、じゃ!」

「またまた~、アルデリーゼちゃん、冗談が過ぎるよ」

「あん?」

 何かカチンと来た。

「おい、クロ。こいつに火を吐いてやれ」

「ワフン」

 私の指示に従いクロは炎を吐き、ナサリアの髪を少し焦がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る