私? 良い子じゃろ?

 どんどん先に行く阿呆共を追いかけて、私とフィリアは走って追いかける。

 もう、なんでこんな小さい体にしたのだろう、歩幅がフィリアと全然違うぞ。今更、泣き言など言っても始まらんのは分かっている。分かっているが……。


 何か便利な魔法あったような、なかったような……。

 召喚して、何かに乗っていくってのは有りだな。

 使えそうな召喚獣………。


 ズベベッ!

 木の根に躓いて盛大に転んだ。

「やっぱ、馬鹿だねあんた。考え事しながら森の中走ってたら、転ぶに決まってるでしょうが」

 フィリアの舌鋒が鋭い。

「置いてくよ」

 私を置いて、本当に先に走っていくボンクラエルフ。


 使えそうな召喚獣……。

 グリフォンとか、ワイバーンとか。……魔法陣を描いて召喚する時間も無いしの。

 そうだ、地獄犬ヘルハウンドとかどうだ。

 普通じゃろ?

 可愛い犬っころじゃぞ。

 人間も「かわいー!」と大ウケすること間違いなしじゃ!

「よし、決めた。地獄犬を呼ぶ……」

 ゴイン!

「いったーい」

 頭を殴られた。

 誰じゃ、いきなり。フィリアの拳骨より痛かったぞ。


 振り返るとナサリア達ではない、デカい奴が立っていた。

「だれ?」

 私は一瞬固まった。

「ウガー!」

 私を見てデカいのが吼えた。

 わかっちょるよ、ちょっと茶目っ気出して聞いてみただけだって。トロウル……じゃなかった。オーガじゃろ。

 私、上級悪魔じゃよ。お前、私に勝てると思ってやっとるのか?

 ちょいと睨む。

 その瞬間、オーガの棍棒がうなりを上げて襲い掛かって来た。

「ま、まて……」

 風を孕んだ物体が頭の上を掠めた。

 辛うじてしゃがんで避けたが、風圧が髪を巻き上げる程の威力。当たっていたら、結構痛かったと思う。でも、あの程度じゃ死なんよ、悪魔じゃからの。


 ドヤ顔決めようと思った直後に思い出した。

「あ……。見た目、人間の小娘だったわ……」

 そりゃあ襲ってくるわ。奴には食い物に見えとるじゃろうなあ。


 というかの、こんなデカブツこの森に居るって聞いておらんよ。情報不足なんじゃないかの? というか、ナサリアよ。ちゃんと聞いたら教えてくれたんじゃないか?

「あぶないよ……っとさ!」

 いや、こっちが今危なかった。

 目の前を唸りをあげながら棍棒が通り抜けた。下がって避けたが、その威力にちょっとドキドキしちゃったぞ。

 しかし、調子に乗りすぎだな、こやつ。ちょいと悪魔の本気出しちゃう?

 ナサリア達もおらんし、構わんじゃろ。


 棍棒を避けながら右腕を突き出し、魔力を貯める。すぐに腕の周りに光が纏い、バチバチと音を立て始めた。

雷の網ライトニングウェブ!」

 予備詠唱なしで魔法を発動してやった。

 直後、オーガは私の手から放たれた光り輝く雷魔法の網に包まれた。


 バチバチバチン!


 激しい音が連続し、焦げるような匂いを放つ中でオーガは絶叫し、そして息絶えた。一撃とはあっけないものである。

 何にせよ満足したので、誰も見ていないがオーガを指差して勝利のポーズを決める。

「悪い子にはやっぱりお仕置きじゃろ?」

 私? 良い子じゃろ? 悪魔的に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る