何するんじゃ!

「聞こえるね……」

「奴等が向かって来ておる」

 皆が警戒し、表情を一変させる。

 如何に阿呆とはいえ、命がかかっているからな。よもやゴブリン如きに後れを取るとは思わんが。

「何体か分かるか?」

「……7、……8?」

「結構多いな。さすがに鼻が利く奴等だ。人間の臭いに寄ってきたか」

 懐からロッドを取り出し、戦闘に備える。

「……ああ、すまんな。俺の臭いか?」

 おっさん、フィリアの冗談を気にしてたのか……

「主に雌の匂いに釣られて来る……って、おら撃ってきたぞ」

 木の影、木の上。身を隠して弓で攻撃か。

 固まって来れば一網打尽にしたものを。

 とはいえ、相手の弓矢もまだ届く距離ではない。

 粗末な小弓ショートボウに非力な腕ではそんな物だろう。

「アルデリーゼちゃん、森が燃えるような魔法はダメだからね」

 ナサリアに注意された。

 うん、使うつもりでおった。何も考えずに、特大の火炎球ファイヤーボールブチ込むつもりでおったぞ。

 チマチマ倒すの面倒ではないか。悪魔がそんな遠慮すると思うか?

 森ごと燃やせば手間省けるじゃろ?

 ってな事考えた瞬間に、フィリアに睨まれた。奴も森の住人エルフの端くれだからな。

 仕方ない。ちょいと使い方変えて拡散させるか。

「大気に宿る力よ、我が腕に宿りて敵を滅せよ! ライトニングボ……」

「だめー!」

 詠唱を見ていた棒切れが、慌てて叫んで飛び込んできた。

「うわっちゃ……」

 慌てて中断したが、詠唱を途中で止めたので、暴発するかと思ったわい。

 腕の辺りがビリビリいっておる。

「何するんじゃ!」

「ライトニングボルトなんて、雷と一緒でしょ。燃えたらどうすんの!」

 おう、詳しいの。

 知っとった。知っとったよ。

 でもな、私は風とか水の魔法って得意じゃないのよ。そもそも悪魔らしく無いっていうか?

 悪魔が『死ね人間!』とか言う時って、炎とか雷とか、そういう感じじゃろ?


「仕方ないのう。もう文句は言わせん。寄ってくる前に片付ける」

 私は両手を前に差し出し、精神を集中すると一気に力を解き放つ。

闇の矢ダークネスアロー!」

 面倒なのでこの際、命中精度とかどうでもいいし、予備詠唱を省いてやった。

 私の手から放たれた10本以上の黒い矢が前方に拡散して飛ぶ。

 気配から、大体あの辺にいるだろうという、大雑把な撃ち方だ。

 3匹くらいは仕留めるだろう。

 楽観的に考えていたが、正にその通り。悲鳴を上げて、木から2匹落下してきて、木の陰にいた奴も、1匹木ごと貫いていた。

「こんなもんか?」

 フィリアが私を見て驚いておる。

 おう棒切れ、本当に私をただのお馬鹿なチビちゃんだと思っておったのか?


 次は仲間を呼び寄せて襲ってくるぞ。

 寄ってきたら、今度は全部に狙いを付けて倒しても良いが。どうする? 3人の冒険者よ。

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