悪魔のプライドは高いのだ

 しばらく歩いてようやく村に到着した。

 いっぱい歩いたので、疲れたぞ。足が痛い。いや、私が貧弱なのではない。

 私は、悪魔ゆえにな、いつもなら長距離移動は羽を使ってスィーなんじゃぞ。普段はこんな距離を歩くことも無いからの。こうやって歩かねばならんとは、人間とは不便な生き物よのう。

 自分に言い訳をしてみた。

 とはいえ、弱っている所など見せようものなら、フィリアに何を言われるか分からん。

「今日は依頼者から話を聞いたら、宿取ろうか」

 ナサリアが提案する。

「おお、それが良いな」

 私としては大賛成だ。さっさと美味い飯でも食って寝た……

「いや、今日のうちに少し調べておこうよ」

 棒切れ! お前は真面目ちゃんか!

「夜に襲撃でも受けたら、夜目利くの私だけでしょ?」

 おお、言っていることはマトモではないか。じゃがな、私ゃ悪魔なのだよ。

 夜目どころか、バッチリ見えるのよこれが。そんな事は当然、言わんけどね。

 ナサリアが私の顔を見る。

 幼子と思うて気を使ったのだろうが…。

「ふむ、それでも構わん」

 ここで折れては、またあの棒切れに馬鹿にされてしまう。それだけは避けねばならん、悪魔のプライドは高いのだ。

 というか、棒切れ、何だその「あーあ、言い切ったけどいいのかなー」的な憐れむような目は。

 後で絶対殴る。というか殺す! 悪魔を嘗めるなよ。

「しょうがない、足にこの薬草貼っときな。疲労が取れるから」

 フィリアが自分の背負い袋バックパックから白い包みを取り出し、私に差し出した。

 前言撤回。もう少し様子を見てやることにする。

 言われるままに、薬草を取り出して足に貼る。悪魔にこの薬効成分が利くのか良く分からんが、ひんやりしていて気持ちいいことは確かだ。

 何となく、もう少し歩ける気がしてきた。

「あ…ありがとう…の…」

 人間社会の慣わしに従って言ってみたが、恥ずかしいし、棒切れに言うのも癪だし、しっくり来ない。

「気にするな、足手まといになられても困るからな」

 フィリアは顔を赤くして横を向いた。

 全く、素直じゃない奴め。


「とりあえず依頼人でもある村長さんの所へ行こうか」

「ういー……」

 面倒臭そうにおっさんが返事をして、ナサリアの後についていく。

 そういえば。

「のう、フィリア」

「ん?」

「おっさんの名を聞いておらなんだが…」

 私の質問に、一瞬首を傾げた後で、フィリアはそっぽを向いた。

 忘れたのか、覚える気が無かったか、どっちだ?

 やむを得んので、しばらくは私もおっさんと呼ぶ事にする。やれやれ、仲間意識が希薄だのう。


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