上級悪魔の「とある失敗」から始まった冒険者生活はどうやったら成功するのか？

なんですと？

　冒険者ギルドとやらに入る際、私はローブのフードを被った。

　外見年齢で安く見られては困るからだ。身長は誤魔化しようがないのでしょうがないが。

「初めてなら、登録しとく？　仕事の斡旋もしてくれるよ」

　仕事の斡旋などはどうでもいいので、身分保証をさっさとしてもらって後々動きやすくしてくれる方が良い。

「では、ナサリア、案内を頼む」

　私をここまで連れてきた女の名だ。

　来る道中で聞いた。ちなみにその時に私も「アルデリーゼ」と正直に名乗った。偽名は何かと面倒になりそうだというのが、その理由である。

「ああ、先客が居るね。カウンターの列に並んで待ってて、すぐ戻るから」

　そう言うと、ナサリアは壁にある掲示物の方へと走っていった。

　私の前に居る先客は、受付の女から身分証明の提示を求められている。

　先程、私も門番にも提示を求められたが、無理矢理抜けてきた位だ。そんなものは持っているはずがない。と、思ったのだが、先客が取り出した小さなプレートには見覚えが有った。

　私が死体から頂いた財布にも、同じようなものが入っていたはずだ。

　慌てて財布からそれを取り出すと、確かに名前らしきものが刻まれていた。横に有るのは生まれた日と、家の有る場所か、出身地だろうか。

　これが身分証明か。

　これを改竄すれば……。

　止めておこう。これは死体に返してやるのが筋だ。悪魔とて死者から金を奪った上、さらに名前まで奪うほど外道ではない。

　もとより、こんな物は私にかかれば複製くらい容易いもの。

　だがちょっとまて、素材は何だ？

　私とて流石に無からは作れん。まじまじとプレートを見詰めた。

　銀……か？

　手持ちの銀といえば……銀貨しかないな。それも２枚は必要だ。財布の中に残された貨幣は多くない。その中には金貨が２枚と銀貨が３枚。

　ここで銀貨を無駄にするのも……いや迷っている暇は無い。

（模造（イミテーション）……）

　私が誰にも聞こえぬよう静かに唱えると、手のひらの上にあった２枚の銀貨が融合し、一瞬で姿を変えた。見事な模造品の出来上がりだ。

　用心したので、その工程は誰にも見られていない。

　プレートに刻んだ情報は、名前は「アルデリーゼ・マイラトス」。生まれた日は、およそ１３年前。最後の良く分からん地域名は、迷いの森の近くにあったラトリア村にしておいた。

　先客の手続きが終わり、私の番を迎えた。

　案内に従い、作ったばかりの身分証を堂々と提示する。

　これで面倒ごとは避けられる。ふっふっふ、人間共よ、これが上級悪魔の実力というものだ。

　受付の女は身分証のプレートと私の顔を見る。

　どうだ、完璧だろう！ 何の問題あるまい！　……と、胸を張った直後だった。

「はい、お嬢ちゃん、保護者の方を連れてきてください」

「なんですと！？」