人間とはこんな恐ろしい物を……

 間もなく二人の前に食事が運ばれてきた。

 無論、初めて見る食べ物だ。パン…は良い。

 私の前に置かれた、この小さな鉄鍋でグツグツいっているものは何だ!

 恐る恐る、スプーンを突っ込み、ゆっくりと口に運ぶ。

「ぅあっっっちーーっ!」

 激熱ではないか。ドラゴンの業火に焼かれたかと思ったぞ。最終的に何とか飲み込めたが驚いたではないか。

 我々はファイヤーブレスを吐く種族ではないので、口の中が熱いものに耐性がある訳では……

「ふぎぃぃぃーーーー!」

 突然、激しい刺激が口内と喉を襲う。

 これか、これが人間の秘密兵器か?

 私を悪魔と見破って、このような物を用意したのか!

 見れば、ナサリアが腹を抱えて笑っておる。

 私は嵌められたのか!

「ぬ……、お……の……れ…」

 刺激で声が出ぬ。

 これでは魔法も使えぬではないか!

 良く見れば、周りの人間も笑っているではないか。

 人間とは何と恐ろしい生き物じゃ。親切を装い連れ回し、こうやって弱らせてから、私を嬲り殺すつもりだったじゃな。

 おのれ、おのれ……。

 私は悶え苦しんだ。


「ナサリアちゃん、まだそのお嬢ちゃんには激辛料理は早かったんじゃないか?」

 …なぬ?

「何で止めてやらなかったのさ」

 他の客が心配そうに見つめる。先程までの様子とは違う。

「いや、率先して頼むから食べられるのかと思って……」

 これは本当に食い物だったのか?

 確かに少数ではあるが、これを食っている奴も居る。

 人間とはこんな恐ろしい物を食す生き物なのか……

「だ、大丈夫?」

 息も絶え絶えな私の様子を見て、ナサリアが顔を覗き込んでくる。きっと他の客の態度が変わったのも、そういう事なのだろう。

 冷静さを取り戻そうと、私は水を口に運んだ。

「うう、から…い…」

 水を飲んでも、しばらくは刺激は和らぐことは無かった。


「で、依頼内容はなんじゃ?」

「近隣の村にゴブリンが出没するようにとなったから、その近くに集落でもできたのかも知れないという事で、その調査。できれば討伐も」

「ほむ……」

 新しく注文し直した物を、良く冷ましてから食べる。

 もちろん刺激物無しにした。

「まあ、ゴブリンどもは厄介じゃからの」

「知ってるの?」

 ナサリアは不思議そうに首を傾げる。

「うむ、奴らは何処にでも巣を作る。しかも衛生面に気を付けようという気が無いから、臭い」

「よく知ってるねえ。駆け出し冒険者とは思えないよ」

「だから駆け出しでは無いと…」

 実のところ、我が一家の住み処の近くに集落を作られ、非常に迷惑だったので強制退去させた事がある。

 それでも臭かったので一帯を焼いた程だ。

「お嬢ちゃん、物知りだねえ。いい本読んだんだな」

 隣の客が笑ったが、今更相手をする気にもなれなかった。

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