第20話 料理の腕が素晴らしい
このままここでボーッとしていても
パトロールと言っても特にこれといって見て回るところも無いのだが、この周辺の地理を覚えるのも兼ねての散策と言ったほうが正しいかもしれない。
何も無いが、広さだけは無駄にある『
自転車を使っても午前中だけで全域を廻る事はできない広さだ。
正午少し前に交番まで戻り、今日の昼食をどうしようかと考え始める。
昼食は
結局その出前も食堂の使用人さんが持ってきてくれるわけで、その手間を考えれば俺から食堂に出向くべきかとも思い悩むのだが。
「何を食おうかな………」
そんな事を考えながらメニューを眺めていると、本日3組目のお客さんがやって来た。
「お勤めご苦労様、
それは
「ああ、
「今のこの状況も似たようなものでしょ?あなた
「そう言われるとその通りだな………」
午前中の訪問者達と違い、静かな物腰の
と言うと
みんながこの
「そろそろお昼の時間でしょ。もう何か出前とか注文しちゃった?」
「いや、まだこれからだけど」
「良かった。なら、これ食べる?」
そう言った
「え………それ、俺に?」
「い、嫌なら無理にとは言わないけど」
「いや、嫌じゃないよ!ありがとう」
蓋を開けると
料理についてはあまり詳しくない俺だが、これはかなり本格的なんじゃないだろうか?
いわゆる『家庭のお弁当』と言うよりも、『料亭の仕出し弁当』のような雰囲気だ。
「すげぇ………これ、
「そ、そうよ………」
「それじゃあ、いただきます」
手を合わせてから弁当に箸を伸ばす。
一口食べてみると、見た目の見事さに
「うん、旨い!すげぇな、これ」
「ま、まあね。これでも一応、料理人志望だから」
「そうなのか。そういや実家が寿司屋だったっけな」
「うん。でも私、お寿司屋さんは無理だから………」
始めて会った時に実家の寿司屋の事は誇りに思っているとか言っていたが、寿司屋を継ぐ気は無いって事なのだろうか。
「………もし嫌じゃないなら、その辺の事情を聞いてもいいか?」
「うん………前にも言ったけど、実家の寿司屋という職業の事は好きだし、寿司職人という人達の事も尊敬しているわ。でも、私は寿司職人にはなれないの」
「それはまた何で………女性の寿司職人なんて珍しくもないと思うんだが」
「寿司職人と他の料理人の違いは何かわかる?」
寿司職人とそれ以外の料理人………何だろう。
魚は………寿司以外でも扱うしな。
「寿司職人はね、カウンターでお客様の前でお寿司を握るの。そして、目の前のお客様を楽しませる話術、コミュニケーション能力も必要とされるわ。ただ料理の腕前だけが高いだけでは勤まらない仕事なのよ」
「なるほど」
つまり
だから寿司以外の、客との直接のコミュニケーションを必要としないジャンルの料理人を目指していると。
「しかしな………
「私は一人っ子だから………」
「なら親御さんはお前に跡を継いで欲しいんじゃないのか」
「………………」
どうやら図星のようだ。
なら、そんな事は俺が言うまでもなくずっと考え続けてきた事だろう。
今はこれ以上俺が踏み込むべき問題じゃないな。
「ま、お前が実家を継ぐにしても継がないにしても、今すぐってわけじゃないだろ。ならここでしばらく料理修行をすればいいさ。俺でよければ味見役くらいならいつでもしてやるからさ。こうして昼飯を作ってきてもらえるのも有難いしな」
「
我ながら随分と偉そうと言うか、くさいセリフを言った気がする。
よく考えたら
だが、この
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます