第7話 新たなヒロインを紹介したい

「というわけで、俺は帰る」


「その話はさっき終わったはずでしょう?」


「ならもう少しマトモな事を言え!」


 俺はこれでも真剣に考えたんだぞ!

 アカねーちゃんの手紙を読んで、少しはコイツの遊びに付き合ってやろうかと思った矢先にこれだ。

 紗羽サワの件もあり、コイツのやる事にも少しは意義があるのかと思いきや………


「まあまあ、君がここに残ってくれるっていう言質げんちはもう取ったんだし、とりあえず夕食を食べに行きましょう」


「お前、今さらっと言質げんちって言いやがったな………」


 悔しいが今この時間から徒歩で帰るのは危険だという話はさっきしたばかりだ。

 それに今日は自宅を出る前に軽い朝食を食べたきりなので、実は結構な空腹感に襲われている。


「くそ………」


「さぁ、食堂へ案内するわ。それと翔琉カケル君の『ギャルゲ主人公化計画』についても説明するから」


「勝手に計画すんな!!」


 込み上げてくる頭痛に目眩を覚えながら、俺は兎毬トマリの後を追って食堂へ移動した。




 2階の兎毬トマリの部屋から階段を下り、1階の食堂へとやって来た。

 白いテーブルクロスの掛けられた長テーブルは10人くらいが着席できそうなサイズだった。

 ドラマとかでしか見た事が無い、いかにもな金持ちの家のテーブル。

 または高級レストランの団体客用のテーブルみたいな奴だ。

 俺達がこの食堂に来た時点でそこにいたのは二人だけだった。

 一人は既に対面済みの瀬久原セクハラ 紗羽サワ

 もう一人は初めて見る女だ。

 髪は長く、小柄な紗羽サワの隣にいるせいか特に大きく見えるが、女性にしてはかなりの高身長の部類だろう。

 俺よりは年上なんだろうか。


「今日は紗羽サワちゃんとルノちゃんだけか」


「はい、一応皆さんには声をかけたんですが………」


 紗羽サワが申し訳なさそうな声を出す。


「別に紗羽サワちゃんのせいじゃないでしょ?まぁちょうど良かったかもしれないわね。翔琉カケル君もヒロインは一人ずつ紹介されたほうが覚えやすいだろうし、感情移入もしやすいでしょ」


「おい。またさらっとヒロインとか言ったか」


「まず紗羽サワちゃんはもう知ってるわよね。年下・後輩系ヒロインよ」


「そんな紹介の仕方があるか!!」


「あの、岡尾オカオ先輩って呼んだほうがいいですか………?」


「そんな気遣いはいらん!!」


「そして、紗羽サワちゃんの隣が………」


「あ、私が自分で自己紹介するわ」


 紗羽サワの隣の背の高い女は席から立ち上がり、俺の目の前まで近づいてきた。

 立つと思った通り背が高い。

 目算で170センチ近くはありそうだ。

 たしか兎毬トマリは「ルノちゃん」とか呼んでいたな。

 そのルノは俺と接触しそうなほど近づくと、俺の胸に右手を添えて微笑んだ。


「アナタが翔琉カケル君ね?岡尾オカオぉ~、翔琉カケルくん♡」


「あ、ああ………」


 この言い方はなんだかイヤな感じだ。

 数時間前の兎毬トマリの言い方に似ている。

 また俺の名前でくだらない下ネタを言うつもりじゃないだろうな………と警戒した瞬間、女は俺の目の前でゆっくりとしゃがんだ。


「おい、何をやってる」


 女の顔は俺の股間の前にあり、そこから上目遣いに俺を見上げながらこう言った。


「く・わ・え・る・の♡」


「はあ!?」


 やっぱりか!!

 コイツも兎毬トマリと同類の下ネタ好きか!!

 いや、下ネタ好きは個人の自由だが、俺の名前をネタにされるのは腹が立つ。


「お前な………!」


「私の名前♡」


「は?」


桑江クワエ 流乃ルノくわの木の桑に、江戸えどの江、ながれるに、乃木坂のぎざかの乃で、桑江クワエ 流乃ルノよ。よろしくね、翔琉カケル君」


桑江クワエ………流乃ルノ?」


 それがこの女の名前か?

 そう言えば兎毬トマリも「ルノ」と呼んでたって、さっき自分でも考えていたばかりじゃないか。

 また俺の名前をネタにイジられるのかと警戒していたせいで失念していた。


「あ、ああ………岡尾オカオ 翔琉カケルだ。よろしく」


「たしか18だっけ?私は二十歳ハタチだけど、堅苦しいのはイヤだから『ルノちゃん』でいいわよ♡」


「………わかりました、流乃ルノさん」


「全然わかってないじゃない!?」


「はぁ~、じゃあ流乃ルノでいいか?」


「あ………な、なんだか年下のイケメンから呼び捨てにされるのって、ゾクゾクするわね………!」


 流乃ルノは顔を赤らめながら「ハァハァ」言っている。

 最初に感じた『兎毬トマリと同類』という印象は間違ってはいないようだ。


流乃ルノちゃんが翔琉カケル君の二人目のヒロインって事ね。見ての通り、年上のえっちなお姉さん系ヒロインよ」


「だからその紹介の仕方やめろ」


「年上のお姉さん系ヒロインって意味では私とカブるけど、流乃ルノちゃんには私には無い『武器』があるからね~」


 そう言うと兎毬トマリ流乃ルノの全身をジロジロと眺める。

 確かに流乃ルノは背が高いだけでなく、女性という身体的特徴がこれでもかと言うほど自己主張しているスタイルをしていた。

 それこそコンビニに置いてある漫画雑誌のグラビアに載っていてもおかしくない程に。


「ちなみにサイズは上から90、58、87………」


「聞いてねえから」


 桑江クワエ 流乃ルノ

 またしても覚えやすい名前の人物と遭遇する事になったわけだが、まさかここの連中はこういう名前の奴ばかりが集められてるんじゃないだろうな………。

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