第6話 尊敬する人物の言葉は無視できない

「アカねーちゃん………」


 鮒井手フナイデ アカ

 俺がこの世で最も尊敬している人物。

 職業は警察官だ。

 俺の家は俺が小6の時に母親が家を出ていき、ずっと親父と二人暮らしだったのだが、俺の面倒なんてほとんどほったらかしの親父の代わりに俺の事を面倒みてくれてた、マンションの隣に住んでいるお姉さんだ。

 出会った頃はまだ交通課の婦人警官だったが、俺が中3の時に憧れの刑事になった。

 元々テレビの刑事ドラマが大好きな熱血漢(?)で、刑事になってからは男性刑事も顔負けの熱血刑事となり、役職は低いが署内では多くの人から頼られる影のボス的な存在になっているらしい。

 俺が刑事を目指したのも、そんなアカねーちゃんに憧れたからだ。

 そのアカねーちゃんからの手紙がここにあるという事は、兎毬トマリの奴はアカねーちゃんにまで手回ししていたという事か。

 中を読むのがなんだか少し怖かったが、見ないわけにもいかず、覚悟を決めて読む事にした。



『翔琉へ。高校卒業おめでとう。お前はこんな私なんかに憧れて刑事になりたいなんて言い出しやがって、嬉しい反面、責任も感じている。前にも言ったと思うが、私はお前に刑事、警察官になって欲しいとは思っていないからだ。警察官は正義を守る仕事だが、同時に危険も多い。お前を大切に思うからこそ、お前にそんな危険な仕事をさせたくは無い。私達は家族じゃないけど、私はお前の事を本当の弟のように思っているから。でも、最終的にはお前の人生はお前が決めるべきだとも思っている。だからお前がどうしても警察官になりたいと言うならば、私に止める権利は無い。だからお前の姉としてでは無く、先輩警察官として忠告をしたいと思う。お前は警察官に向いていない。正義感は強いが、お前には同年代の男に比べて圧倒的に足りていない部分があるからだ。だから、どうしても警察官になりたいのなら、兎毬トマリさんの国でその足りていない部分を見つけてみろ。それを見つけられたなら、お前はきっと私なんかよりももっと凄い刑事になれる。私が保障する。まずは自分自身と向き合ってみる事から始めてみろ。』



「………相変わらず汚ねー字だな」


 つい悪態が口からこぼれてしまったが、その汚い手紙からはアカねーちゃんの俺を思いやる気持ちがいやってほど感じられ、不覚にも涙が込み上げてきそうになった。

 その昂った感情を抑えるためにも悪態をつくしかなかったのだ。


「読み終わった?」


「ああ………」


「それで、感想は?」


「………………」


 正直、感情では納得できていない。

 だがアカねーちゃんが俺に「足りていない部分がある」と言っているところだけは見過ごせないとは思う。

 俺はそんなに自惚れが強いほうではないと思うが、それでもここまで言われるほど人より劣っているのだろうか。

 もしかしたら俺を警察官にしたくないアカねーちゃんの方便かもしれないと思う事もできたが、もし本当に俺に足りない部分があるのなら、それは克服すべきだ。

 なんだか全て兎毬トマリの思い通りの筋書きで進んでいる気がして不満もあるが、少しだけなら付き合ってやってもいいかもという気にはなってきた。


「はあ………わかったよ。少しだけアンタの理想の国作りとやらに付き合ってやるよ」


「交渉成立ね」


「それで?俺はここで何をやればいいんだ」


 紗羽サワのここでの様子を見る限り、そこまでぶっ飛んだおかしな理想では無いと思う。

 ならば少しくらいこのワガママお嬢様の道楽に付き合ってやってもいいかもしれない。


「私はね、色々と試したい事があって、翔琉カケル君にはその実証実験に協力してもらいたいのよ」


「実証実験?」


 兎毬トマリは椅子から立ち上がり俺の前まで歩み寄ると、俺の鼻先へ人差し指を『ビシッ』と突き立ててこう言った。


翔琉カケル君!キミにはギャルゲーの主人公になってもらうわ!!」


 ………空気が固まった。

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