第27話 仕手相場、紀文の女方

大坂(大阪)は日本全国から米が集まって来る。それで町のあちこちの川沿いに米蔵が林立しています。

それで現物の米商い全国から集まった米が商人により盛んに大坂で取引されている、その保険に米相場の信用取引も生まれて、これまでも盛んに取引されていました。

勿論米市場を開き仕切っていたのは淀屋の(岡本氏)です、その頃商人では日本一の金持ちで御座いました、淀屋は始め材木商いをしていましたがその後手を広げて米商いや金貸し(大名貸し)までします。紀文は知っての通りこの頃はまだ駆け出しで御座いました。

紀文は河村瑞賢に商人は相場にも、注意しなければならないと聞いていたので、米の値動きを名もない相場師から買って逸れを見て熱心に 相場の研究をしていました。

(うん相場は難しいなぁ需要と供給かそれに 天気の予測やその時の人気など、複雑に絡んで日々の相場の値段があります)

紀文はこの時は、本当に忙しいようで暇

であった、河村瑞賢翁から授かった相場覚え書きに目を通しては頷いていた。(万人強気片寄りし時は、あほうになって売れか!)

ちょうど近くに淀屋の手代がいたので聞いた、淀屋は米相場の市場も運営してます。

「今米相場の値段はどうなってるのかな?」

「へえ去年の大風で不作、買い人気旺盛で棒上げ相場本日更に高値更新ですね!」

じっと値段を見ている、三山の天井型から上値を尽き天上の形を現しているのである。

(河村瑞賢相場覚えで、この形は売りやな)

紀文は罫線とにらめっこし、米相場の思案をしてましたが突然ひらめいたようです。

(正に灯火消えんとする最後の一瞬パッと輝き棒上げするが、そこ思い切り売るべし!)

と書かれていました、少し不安でした。

「儂も米相場を少しはってみたい、あのう証拠金あれば今日にでも出来ますかな?」

「はい紀ノ国屋さんなら、信用で何時でも出来ますよ何ならこの場でご注文しますか?」

「そうでは先物取引で、現値段でそうやな十万石を成り行きで米売っといてんか!」

「へえ番頭はんに言いまして、早速手続きをしますえっと成り行き売りですね十万石!」

遂に河村瑞賢の、相場覚え書きにてらして実戦売りをいたしました。

その結果は見事的中し、三日で手仕舞った。相場の実際的な試しでしたので欲張らずでした。あまり喜びはなかったのだ空売りは矢張り性分に合わないようです、紀文は現物の買いが好きであったのだろう。

今回の相場は仕手筋の、米買い占めによる人為的なものでありました、しかし米が極端に上がると一般の庶民が困るので、逸れを見かねての紀文の売りであったのです。

少しその時の市場の様子を、どんな具わいだったのか見てみましょうかね。

「オイ何やおかしいないか? この上げ相場急に止まってるな」

「おう何や今世間騒がしてる、紀ノ国屋文左衛門が大量に空売りしてるとの噂や!」

噂早くあちこちで、市場の雀が寄って来てわあわあと騒ぎ出した。

「あの紀文やったら何処から現物米を、船で仕入れて大坂へ持って来るの違うか?」

「そうやな紀文やったら、やりかねんな!」

嵐の中ミカンを江戸へ運んだ事は、大坂でも有名な話しとなりもちきりでした。

「大嵐も近畿だけで、よそでは豊作ではないかとも言われてますよねぇ」

「ほな早よ売ろか、そや利益確定や!」

仕手筋も売り方は紀文だと知ると、人為的な相場でもあったので、仕手筋狼狽して一気に高い値段は崩れ逆に売り人気になった。

ここに紀文という今まで名前を売っていました、効果が強烈に出たので御座います。

勿論ストップ安売り気配に転じた相場を手代を呼び、悠々と空売り売りした十万石を買い物入れて手仕舞いし利益確定をしました。

まだ規模か小さいせいもあったと思われます、盛んに成るのは大坂の堂島に享保十五年(千七百三十年)六月に米市場が開かれ、帳合米取引(信用取引)が行われるようになってからですが、逸れまでも取引はありました。

世界に先駆けて先物信用取引、この時代からおこなっていたのは日本だけでした。今では世界中で先物取引は当然如く有ります。

此処で少し脱線しまして日本罫線の話しをします、相場師達が長年苦労し血の小便しながら研究した結果得た罫線で御座います。

底値では毛抜き底三尊底W底が有ります反発のきざしは、N字型や太陽線一本立ちなどが有る日本罫線誰が考案したのでしょうか。

そして天上では毛抜き天井や三尊天井などが有ります、下げ相場きざしで逆N字の型が有ります、日本罫線は一人の天才では無く相場する多くの人々が長年関わって出来たようで御座います。

この小説は相場の解説書で無いので、やはりこの辺で止めて置きましょうかね、といっても私はすぐにも脱線しますけれど。

「紀文の若旦那やりましたね、あの後暴落しましたねぇ次の商いどうしましょうかね?」

「まぁ偶然たまたまや後には休むも相場やまた今度にします、孫子曰わく始めは処女の如く、後には脱兎の如くですなぁハハハッ!」

「気が変わればぜひお願いしますよ、其れでは待ってますよっ私名前は福富大助と言います今後とも宜しくお願いします!」

「うん御苦労様、今回の分早速清算して金は後でこの凡天丸に届けてな小判でな!」

「へえ紀ノ国屋さん早速明日にでも、小判用意してこの足でお届けに上がりますよ」

このように運良いときは、思い思案は自分の考え以上に運びますが、不利運の時は逆に裏目裏目にへと運びます、何をしても付きませんので今運は有るのかとても大事です。

徳川家康のごとく盛運の者には逆らわず無理をせず、自らの実力を高めつっ時の来るのをじっと待つも一つの方法で有ります。

満月もいずれ欠けるのは自然の道理です今盛運な者もいずれ考え当たらなく成りますが逸れは道理です、その時にこんなはずはない自分は正しいのだと、もがくほどにどつぼに嵌まり再起不能になる事があるようですね。

けれど運を司る神に付いては、宮本武蔵翁曰く我神を信じて神には頼らず。

織田信長公曰わく人事を尽くして天命(運)を待つ、戦いの七割は戦争前の情報戦で決している残り三割は戦場に有ると、運とはとても凡人には計り難いもので御座いますね。

また脱線しますが、日本の第二次大戦に於いて山本五十六連合艦隊長官は、信長の戦術戦略を参考にしますが、肝心の情報戦略を参考に出来ずに敗北しました。

それと信長は年功序列でなくて部下の能力を把握し、適材適所に配置する事に優れていました、逸れは信長の天才的な能力でしたが旧臣下には信頼を無くします。其れでは話を元に戻します度々すみませんねぇ。

一応は成功したが何故だろうかあまり喜びはなかった、この相場覚え書きに書いてある世の中の目に見えぬものを見よは、ひょっとしたら超能力に合い通じる事なのか。

(相場覚え書きに書いてある事を実戦してみたが、矢張り現物の売り買いが自分に合っている、程ほどにしておこうか信用売買は現物無いので何や頼りなくていかんしなぁ)

歴史を参考にして今の動きを見て心を無にし、冷静に判断するそして自然の理(ことわり)にてらすのは修験道に通じる事でもあったのだ、相場道と修験道は神に通じるのか。

なおこの河村瑞賢翁の相場覚え書きは、現在は残っておらず惜しまれる、忍術と同じく消え去った需要な秘伝も有るのである。

現在に残っている有名な物は「本間宗久翁秘録」と「三猿金泉秘録」であるが、逸れは江戸時代後年物でこの頃は、まだそのような相場の秘伝書は在りませんでした。

またあったとしてもその考えにこだわって、考えを固定してしまっては相場に曲がってしまう恐れも有る、一般的に出回ってる物は眉唾物もあるし欲に絡めば実行出来ぬ。

物事に捕らわれない自然に聞くという、柔らか頭が必要なので御座います。

本の中に良書や悪書が有ります書かれている事を総て真に受けられません、思想的な思案もありかつ中には金子貰い依頼者の為に間違った情報を知りつつ流す、悪意ある本も中にはある良い本に巡り会いたいですよね。

罫線といっても万能では在りませんが、人の行いは今も昔もよく似ています逸れは人々の群集的行動によるものでしょうか。

古きを尋ねて新しきを知るです、似たような事起こると人は似たような行動をとるのでだからその系譜(罫線)を辿れば、次に起こりうる事(未来)を予測し得るのでしょう、予測と予知はもちろん違いますがね。予測ははずれる事が多いのです、それはその人の独断と偏見に元好き、其処にその人の欲が関わってくるからで有ります。

それは修検道に通じる事かも知れませんね、本当に未来を見る予知能力(超能力)が有れば相場師にはとてもいいのですがね。

「おおい高垣どの、ちょっと来てくれ」

「あの若旦那何か、ご用命ですか?」

「うんあのな紀州で、両替商知らんか?」

「あることは有りますが規模が小さすぎてとても、後は藩の蜜柑方しか知りませんねぇ」

「うーんそうかぁ、やはりなぁ」

紀州は大坂や江戸に比べると金融は全く発展していません、のでこの頃そうゆう事は、みんな紀州藩の役所に頼っていました。

「今更ながら困ったのう、千両箱山積でとても不安になるのや!」

「あっ紀州に帰ったら何とか成りますよ、旦那と縁が在ります加納久光どのがいましたあの人は、松坂の三井家と繋がり有りますので為替の件など、即口を聞いて貰えますよ!」

「そうだ三井は紀州藩領の松坂出身やった江戸に店あるし、そういえば前に行った時為替も取り扱っていたようだった」

徳川御三家のうち、紀州徳川家のみが上方銀経済圏に属してました思い出したのです。

金は無いのも困るが、有りすぎても困るのでしょうかねぇそんな経験したいですね。

さ先ほど紀文に話かけて、用が出来たのか何も言わずどこかに行った花岡が、再び顔出して紀文に手で合図します何であろうか。

 根来同心組の花岡十兵衛が言う、文左は近寄って詳しく聞く。

「実は町で探索中に、凡天丸の事を聞き回る女がいまして、不信に思い後をつけて見ると天王寺屋という忍びの宿に入りました」

しかし あまりのことなので声詰める。

「別に不思議な事、でも無いのでは?」

「へえ私はその女が細身の私好み粋な女でしたので、ついふらふらと執拗に追ってしまいました、逸れが間違いだったのかも?」

「まあそれも仕事ならば、問題無いのではないのかな?」

「途中気ずかれまして、問いただされましたけれどその女が言うのに、ほほっこんな不細工に肥えてる忍びもないわねと解放された」

「それは良かったではないか?」

「カチンときてますそれで更に調べ天王寺屋は実は甲賀忍者の出入りする忍び宿で、抜け忍山中権兵衛を頭とする忍者盗賊団でした」

此処で簡単に甲賀忍者について述べておく、甲賀忍者は伊賀忍者と違って下忍少なく、いわゆるピラミツト型でなく独立した五十三家武士団的要素有り、薬学に長けている勿論火薬もそう、鉄砲隊を組織して幕府に広く用いられているが、甲賀忍者の仲にも時にはぐれ忍者集団がいたのでしようか。

「うむそれは、厄介な事だなぁ」

「へい不思議な事なのですが、その忍び宿で江戸で会った奈良屋茂左衛門が、頭(かしら)の山仲権兵衛と親しげに話していました?」

「ウムあの奈良屋茂左衛門か、大坂(今は大阪)まで来ていたか?」

「はい間違い有りません、今夜にも我が船を襲うとの事でした!」

「ウムご苦労様、引き続き監視を願う!」

「はっ、お任せあれ!」

と言うなり、花岡十兵衛は音も立てず風のごとく去った。

紀文も根来忍者、人に任せきりにせず自分でもそれとはなしに天王寺屋まで、かよの女物の着物着て様子を見に行きます。

根来 同心 に器用な者がいまして髪結いもお手のもの、髪は丸髷でなく嶋田に結って貰いました牡丹のようなお嬢さんの出来上がりです、意外感有るのでこれで皆に疑われなく偵察出来そうです。だけれど声変わりが心配でした。余り喋らないようにしなければと思っています、判らないと思いますがね。

それに念を入れておしろい口紅も塗りました、あれれっ男ばかりでそんな物一体どこにあったのかって不思議ですか、逸れはかよに江戸の土産品にと思って、買っていたのが思いがけず役だちました。

それ で皆振り返るほど見事に化けたので、問題なく色っぽい女に変装出来てなお内股で歩く練習もしました何か癖になりそうです。

そして店に行く道すがら、しやなりしやなりと歩く姿を若い衆が此方をしきりに観てたので、からかい半分に流し目でウインクしたら若者突然後ろに後ずさりした。

「キヤゥン、ウワンワンワン!」

犬のしっぽでも踏みつけたのか犬に追われてました、しかし若者の逃げ足速いことびっくりです。

早きこと風のごとくを地でいってます、この若い衆将来有望ですなぁ郵便屋になれますよ、少し可哀想な気しましたけどね。

元々細身の女ぽい顔立ちしてましたし、女のしぐさはかよを見てその真似して、誰にも男だと気ずかれる事はありませんでした、化けるのも忍者の得意技ですしね。

ただ天王寺屋では、店の客とおぼしき男に絡まれました。

「ねえさんちょっと、儂の部屋来て酒のしゃくしてくれねえか?」

手を掴んで、無理やり引こうとします。

「えっ無体な、あの困りますわ」

と言ってその手を、そのまま合気で捻り上げました。

「わあっいててぇ、この女えらいバカチカラだ!」

「きええぇい!」

見ていた甲賀忍者の頭 、山中権兵衛は素早く刀に手をかけて、けさ切りに斬りつける遣られたか。

よく見ると 切られ血を流しているのは、 先ほどのヤクザ風の男であった。

「ううん変わり身の術か、よほどの手練れだな女は伊賀者か?」

「頭我ら以外伊賀者も、あの船狙ってるのですか?」

「おぉ恐らくそうであろう、このしのぎは急がねばならんのう!」

紀文は殺気配を感じ、猿飛びの術と変わり身術で難を逃れた。

「ふう何とも危ない所であった」

皆周りの人々が、その有り様を見ていたので、娘がやられたのかと思って関わらぬようにと、すごすご引っ込みましたけれど男とは全く疑われていませんでした。

無事偵察も済み早めに船に帰ります、女装もあまりやると何か癖になりそうです。

この時甲賀は欲に目がくらみ情報をおろそかにしている、根来忍者を伊賀者と決め付けるなど独断と決め付けは戦いに不利に成る。





























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