第17話 嵐の中みかん船は江戸へ

かよは船員に半天を配り、ご苦労様ですと声をかけていました。

「明日いよいよお立ちですね、おなごり惜しいですね……遠くから男児の本かいを祈っていますよ!」

かよは紀文の安全と成功を祈る、気持ちを込めて言いました。

「嵐が男を試す時俺はやる、俺はやるでぇそや君たちも後悔せぬようにやれぇ!」

皆に聞こえるように、文左衛門全身の声を張り上げて言い放ちました。

(事此処に至っては事が成るように、創意工夫し出来るように努力するしかない!)

勿論用意周到その夜は地図を広げて、江戸までの地形海路を夜遅くまで我が頭に叩き込みました。

孫子曰わく、地形についての道理を見極める事は、その頭梁と成る者の最も重大な任務である。

閏十月二十九日、辰の上刻(午前八時)以前に増して外は大嵐だ。

 下津大崎の屋敷を出た、十六人は加茂川河口堰に来て、船に取り付けた綱を引き寄せ長板を舷に渡し凡天丸に乗り込んだ。

「わぁ久しぶり、新船みたいだ」

「さあみんな気を引き締めて、行くでやってやれぬ事はなしや!」

見送りは三十人ほどで、かよも涙こらえて手を振ってる、しきりに文左衛門に対し、強気のはっぱをかけているが、顔見ると目が潤んで涙目であった。

 そこに馬のひずめの音高らかに、かよの父親の高松河内が急いでやって来た。

「おお文左衛門どの! 間に合ったこれは箕島神社の海上安全の御札だ、それではくれぐれも気をつけての……皆期待してますよ!」

「はあ有り難く思います、ではこれにて皆さん方さらばおさらば……」

(やはり母親の千代は来てくれなかった、一生の別れかも知れなかった。心残りではあった次男だからか?)

 意を決した文左衛門、船を引き留めていた麻縄二本を、先祖譲りの波きり丸で未練無くスパッと切った。

船出を見届けてかよは、近くの箕島神社に出向いて、海上安全の祈願込めて雨降りしきる中、お百度参りをしました。

船名の凡天丸であるが、梵天丸でないかと思われる人も有りますが、神仏の名で有り伊達政宗の幼年期の名前でもあるので、あえてこの作品は凡天丸としています。

「さあ錨を揚げよ! ほな皆行くで」

ギリギリギイ、手回し巻き上げ機で錨を揚げる。風が強い帆をはってないのに、船は海に進む。

下津湊から凡天丸は加茂川の流れに乗って沖に繰り出す、陸からかなり出て潮流に乗ってる、それで岩に乗り上げる事はない、波は予想以上に高く猛烈な雨が、甲板を洗うように降りそそぐ。

「神よ凡天丸を、守りたまえ!」

 天を仰ぎ見て思わず大声を張り上げると、皆文左衛門の顔見た。

すると文左衛門は、祖先譲りの刀である波切り丸のさやを払って天上に掲げ、そして大声を張り上げた。

「南無八幡大菩薩、八百万神々よ我らを助け賜え!」

「おおっ若旦那危ない、雷にうたれますよ」

「気づかいない心配するな、事成すに思う事信じ実行する事だ!」

「これから旦那どうします、陸づたいの近場乗りで行きますか?」

近場航海(地乗り)とは、陸地を離れる事なく沿岸の山容地形を目標として、行う航海で最近最もポピュラーな運航方法である。

「アカンあかん、もっと大胆にやらんと逆に危ない、船をもっと沖へと出すのや!」

「えっヘイこの大嵐の中、沖に船出して大丈夫ですかね?」

「あのなぁこの大嵐、今までの常識で物事考えてはいかんで、非常識の中にこそ突破口が有るんやないのかと儂は思っている!」

「へぇぇ、あのうそうでしょかねぇ?」

 皆顔色青く、不安げである。

「文左衛門一世一代の大勝負、船玉大明神我らを守って御座る!」

「みんなええかあ、船を沖へ出すでぇ! 若旦那遠乗りですね?」

船はさらに沖へと進む、文左衛門腰に縄をくくりつけ磁石片手に指図する、風は唸りを上げて大きく舞う。

 (ビュュウ、ゴオォゴゴゴ-ゥ)

 寄せくる波は小山のごとく、連なり重なり襲って来る、船は上に下に木の葉のように翻弄され、生きてる心持ちもない。

「若旦那、嵐には一服ないんかのう! 雷神様よお手柔らかに?」

 舷から眺める海は、沈み込み船を引き込んで、ああ今度はもうあかんと思うが、叉急に浮上する。

船はさらに沖へと進む、文左衛門腰に縄をくくりつけ磁石片手に指図する、風は唸り上げて舞う。

 (ビュュウ、ゴオォゴゴゴゥ)

 寄せくる波は小山のごとく、連なり重なり襲って来る、船は上に下に木の葉のように翻弄され、生きてる心持ちもない。

「若旦那、嵐には一服ないんかのう! 雷神様よお手柔らかに?」

 舷から眺める海は、沈み込み船を引き込んでああ今度はもうあかんと思うが、叉急に持ち上がり海面にと浮上する。

船はさらに沖へと進む、文左衛門腰に縄をくくりつけ磁石片手に指図する、風は唸り上げて頭上に舞う。

 (ビュュウ、ゴオォゴゴゴゥ)

 寄せくる波は小山のごとく、連なり重なり襲って来る、船は上に下に木の葉のように翻弄され、もう生きてる心持ちもない。

「若旦那、嵐には一服ないんかのう! 雷神様よ頼みます、なにとぞお手柔らかに?」

 舷から眺める海は、沈み込み船を引き込んで、ああ今度はもうあかんと思うが、叉急に浮上するその繰り返し生きてる心地ない。

船はさらに沖へと進む、文左衛門腰に縄をくくりつけ磁石片手に指図する、風は唸り上げて舞う。

 (ビュュウ、ゴオォゴゴゴゥ)

 寄せくる波は小山のごとく、連なり重なり襲って来る、船は上に下に木の葉のように翻弄され、生きてる心持ちもない。

「若旦那、嵐には一服ないんかのう! 雷神様よお手柔らかに?」

 舷から眺める海は、沈み込み船を引き込んで、ああ今度はもうあかんと思うが、叉急に浮上する。

船はさらに沖へ沖へと進む、文左衛門は腰に縄をくくりつけ磁石片手に指図する、風は唸り上げて舞う。

 (ビュュウ、ゴオォゴゴゴゥ)

 寄せくる波は小山のごとく、連なり重なり襲って来る、船は上に下に木の葉のように翻弄され、もう皆は生きてる心持ちもない。

「若旦那、嵐には一服ないんかのう! 雷神様よお手柔らかに?」

 舷から眺める海は、沈み込み船を引き込んで、ああ今度はもうあかんと思うが、叉急に浮上する。

波をかぶって船上にそしてひざ下おおうそんな波大したことないと思っていると、そうでも無く十センチほどの水位の波であったが勢いで倒されると泳ぐことも出来ず、手足を端尽かせながらそのまま七メートルほど流されて帆柱で頭打つ自分で信じられない事だ。

明らかに砂浜で受ける波とは質が違う、津波のように波には勢いがあるのである。

「ええい、帆を揚げよ帆を!」

「えっこの嵐に、帆を揚げるのですか?」

「速度上げて三角波を飛び超えて行くのや、そや船ごと大風受けて飛んで行こう!」

「おお怖! ほな皆さん方親方の指図出たよってに行くで」

「ああナンマイダブツ!」

ろくろ仕掛けで、がりがりと上げるピイン風受け帆が張る、今にも破れんかのように、南西から吹く風を受け船足は飛ぶようだ。

 稲光りが頭上に走り波が船を殴りつけ帆柱は軋んで音たて、海水は怒涛のごとく頭上から叩きつける、みんなは海水をたらふく飲み込んで、激しく咳き込んだ。

 紀伊水道の難所、日の御碕を一気に超えた頃嵐も少し収まった。

「気を緩めるな波は高い、クソ荒波よ何時でもきやがれてんだ!」





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