第19コーナー「重い腰」

──ギギギギィッ!

 プレハブ小屋の扉がきしみながら開く。

 どうやら、これまでとは勝手が違うらしい。いつもなら部屋の壁が四方へと倒れ、外界へと投げ出されていたはずだ。

「外に出ろってことかな……」

 俺はそれが意図することを口にした。

「へんっ! 鬼でも蛇でも来やがれってんだ!」

 夜闇は肩をブンブンと振り回して気合いを入れ始める。そして、無鉄砲にも、扉を開けて外へと飛び出して行った。

「あ、ちょっと!」

 俺の制止がむなしく響く。

 その後に夜闇の悲鳴が聞こえてきた訳でもないので、すぐに危険はないようだ。

「行かなきゃいけないのかな……」

 不安げな表情で村絵は詩音に目配せをする。

 詩音はなんと答えれば良いものかと考えあぐねているようだった。

 ここにいつまでもとどまっていても仕方がないのも事実である。

「……まあ、今すぐに行かなくても大丈夫なんじゃないかなぁ」

 横から俺は口を挟んだ。

「扉から出たら何かしらスタートさせられるってことはあるかもしれないけれど、ここにいる分には何も起こらなそうだし」

「そうみたいだな」と、水槍も同意して頷いた。

「どうせ、また大変な目に合わされるんだろう。余裕がある内に、少しばかり休ませてもらおうとしよう」

 水槍が壁に寄り掛かって目をつぶってくつろぎ始めた。


 扉の外に出た夜闇は後続が出て来ないことを不安に思ったようだ。出て行った扉から顔を覗かせた。

「おい! 来ねぇのかよ」

「すぐに行かなきゃならない道理もないだろう」

 水槍が鼻を鳴らすと、夜闇は舌打ちを返した。

「じゃあ、お前らはずっとそこに居るといいぜ! こっちは俺の領土だから絶対に入ってくるなよな!」

 ねた夜闇が子供っぽくそう言い残すと、再び扉の向こうに引っ込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る