第18コーナー「声の主との対話」

 まるで恒例こうれいであるかのように、俺たちは部屋の中を見回したが声の出処でどころや声の主の姿を見付けることはできなかった。声は何処どこからも——あらゆる方向から反響して聞こえてきている。

「誰だぁ!?」

 夜闇が怒声を上げた。

 その声に驚いた村絵が肩をビクつかせる。

 そんな村絵を落ち着かせようと、詩音は肩をさすってやった。

 夜闇はそんな女子二人のやり取りを見て、バツが悪そうな顔つきになる。自重じちょうして勢いがなくなり、声のボリュームを自ら落とした。

「……俺らをどうする気だよ?」

 声の主が答える。

『どうもしないさ』

「はぁ?」

 夜闇が眉根にしわを寄せ、不快感をあらわにする。

 今回の声の主は、ちょっぴりおしゃべりらしい。機嫌をそこねぬようにと俺は横から口を挟んだ。

「何で俺達にこんなことをさせているんだ?」

『させている訳ではない。お前たちがあらがっているだけだ』

「抗う? 何からさ?」

『死からだ』

──死?

 奈落の底に落ちていった太っちょや眼鏡の男性の顔が頭に浮かぶ。

「抗うのは当然だろう。誰だって、死にたくないんだからさ」

『ならば、立ち止まらぬことだ。走り続けろ』

「走り続けたら……ここから出られるのか?」

 質問攻めにしたせいか、或いは答えにくい内容であったのか——声の主は一旦、言葉に詰まって間を取った。

『死なぬだけだ』

「え……?」

 返事に疑問を抱いたようだ。それまで静観せいかんしていた詩音も口を開いた。

「じゃあ、走っても走っても、死なないだけってことなの? どうしたら此処ここから出られるの?」

『お前たちがここから出ることは叶わぬ』

「こんなところに閉じ込めておいて、そりゃあねぇだろ」

 水槍老人も参戦し、虚空を睨み付ける。

『何やら勘違いもあるようだな』

——勘違い?

 ふと、声の主の声のトーンが変わったような気がしたので、俺は次の言葉を待った。


『あけろ』

 ところが、唐突に声の主は話題を変えた。

『お喋りが過ぎたようだ……あければ道は、開かれる』

「どういうことだ!?」

 叫んだ。翻弄ほんろうされてばかりで頭が追い付かない。


 しかし、それっきり声の主からの応答はなかった。

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