四十曲目:ピノキオピー『ノンブレス・オブリージュ』

 最近、私の中でボカロのリバイバルブームがきております。ついこの間も『EXIT TUNES presents VOCALOCLUSTER』なるCDを買って、Neruさんの『東京テディベア』がMVのバージョンであることに涙したりしていました。変人ですね。

 さて、そんなわけで、昔々に強烈なインパクトを残した(私基準)ボカロPの楽曲を漁るなどしていたわけなのですが。

 いや、びっくりしました。ピノキオピー、現役でめちゃくちゃ曲出してるじゃないですか。DECO*27さんやMARETUさん、Neruさんなんかは定期的にチェックしていたので活動していると知っていたのですが、ピノキオピーが! と思って聴いたんです。今回取り上げた『ノンブレス・オブリージュ』を。

 ……最初は耳を疑いました。綺麗すぎるんです。私が知っているのは『腐れ外道とちょこれゐと』や『週刊少年バイバイ』『頓珍漢の宴』などの混沌とした害毒マシマシの強烈な楽曲群。なのに、『ノンブレス・オブリージュ』はシンプルで綺麗で、私が知っていたピノキオピーとは全く違いました。

 私は懐古厨じみた部分があるもので、最初は大層憤慨しました。曲なんかろくすっぽ作れもしないくせに、偉大なボカロPに対して「軟弱になりやがって」なんて失礼極まりないことを思ったのです。

 が、それを抑え込んで聴くこと数回。なんだか、この曲が私の知っていたピノキオピーの楽曲とダブってきたんです。

 というのも、この曲の歌詞、信じられないほどにストレート。『生きたいが死ねと言われ 死にたいが生きろと言われ』『それぞれの都合と自由のため 息を止めることを強制する』『ぼくらは直接手を下さないまま 想像力を奪う液晶越しに息の根を止めて安心する』なんて、現代社会に対してはっきりと苦言を呈している歌詞が並びます。ピノキオピーはこういった強烈な歌詞が特徴であるというのは昔から変わらない(と思います)が、『腐れ外道』や『週刊少年バイバイ』なんかでは暗喩のような歌詞だったのに対し、『ノンブレス・オブリージュ』ではオブラートに包んでいません。

 そんな鋭く研がれたナイフのような歌詞が、まるで『We Are The World』や『Bitter Sweet Symphony』のような美しいメロディの上に乗っているのが、逆に歌詞のメッセージを際立たせているように感じます。

 そして、この歌の主人公が純粋なのがまた良いです。『腐れ外道』はひねくれていましたが、『ノンブレス・オブリージュ』は苦しめられても復習を企てるなどせず、心優しい青年でいるのです。曲の終わり方も少し寂しいながらも綺麗な形で。美しく幻想的なサウンドともマッチしていますね。

 MVの童話に近い世界観も、楽曲の魅力を引き立てています。歌詞を直接反映させたわかりやすいMVですが、だからこそ薄暗い部分が強烈に引き立ちますし、その薄暗い部分がある世界を『綺麗だ』と思えるようにもなっています。

『腐れ外道とちょこれゐと』や『週刊少年バイバイ』のような楽曲も大好きですが、この『ノンブレス・オブリージュ』はそれらを超えてくる楽曲です。

 表面上(サウンド)の灰汁を取り除きつつ、世界観をさらに深めた名曲。是非一度聴いてみてください。















 ちなみに、今回話題にも上げた『腐れ外道とちょこれゐと』ですが、オリジナルMV(一枚絵ですが便宜上……)と『BEST ALBUM 2009-2020 寿』のバージョン(もしかしたら『Obscure Questions』も)って、結構違いがあるんですよね。

 こういう現象はボカロでは結構見かける(洋楽、邦楽でもあることですけどね。シングルバージョン、アルバムバージョンとか)んです。いつかそこらへんのことについて書こうと思っていますので、お楽しみに。

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