散り菊

蕩揺ー交わり

盆というのは彼岸と此岸の境が曖昧になるようで、例えば小学校の時分に片想いしていた彼女や他愛ない話をしていた友人に意図せず邂逅するように「彼岸の人々」に会うこともあるようで、古来より袖ふれあうも多生の縁というように我々人間が此岸にて過ごす時間より遥かに大きな時間の流れのなかで瞬く間に過ぎて逝くような物語が河に流れる燈籠のように数多浮かんではその灯を消していくのでした。

　小さな願いは未だその願いの行く末を知らず、燈籠は河を下ればやがて海に流れ着いて、もし意識があるのであれば自分の漂うところも理由もわからずあるいはそんなことすら考えることも無く揺蕩うのではないかと。

　金色の華は夏を夢む、郷愁が織り込まれたベールは小さな願いの夢を食む。

　嗚呼、星月夜の光が数千、数億の時を経て降り注ぐように花火の閃光は腐敗した想いを降らす。

　そうして再び鉄紺に染まった空の下では色鮮やかな浴衣と提灯が夏の温い風に揺れていたのでありました。