第38話 Sleep

期末試験が終わった。今日のテストは午前中だけだったので、美戸と幸太は部室でお昼を食べて、手を繋ぎながらお茶を飲んでいる。


そろそろ春も本番といったところで、部室はぽかぽかと暖かい。


来年度の部員募集はどうしようか? というのが今の二人の話題だった。美戸は三年生となり大学受験を控えている。最も美戸は地元の名門女子大学に推薦での進学を目指していて、担任の教師にはその旨を伝えている。


最も高校側としては、一般受験で問題なく受かる学力のある美戸に推薦枠を使うのはもったいないという意見もあって、美戸が推薦を受けられるかはまだ不透明だった。


一方、幸太の方はまだ二年生だから余裕がある。幸太の祖父が幸太に自分の喫茶店を継がせたいと望んでいることは美戸も知っていて、余計なことかなと思いつつ、折にふれ幸太に喫茶店の経営を意識させるような話題を振っている。


幸太の母のさちも将来的に喫茶店を継ぐのは良いが、高卒でいきなりではなく、大学なり専門学校に通ってからにさせたいと考えているらしいというのは幸太から聞いた。


そんな中で新入部員が来ても、美戸は忙しいし、幸太は体力的に後輩の面倒を見るのは難しいだろう。かと言って新入部員を募集しないなら、部活動を継続する意思がないと判断され、部室を学校に返却しなければならなくなるのも困る。


何より新入部員に二人の時間を邪魔されたくない。口には出さずとも美戸と幸太の意見は一致していた。


幸太がうとうとしながら、相槌が途切れ途切れになってきた。


珍しいね。美戸は思った。美戸といる時の幸太はいつもにこにこしながら美戸の言うことに相槌をうってくれて、退屈してたり眠そうな様子を見せることはない。たぶん今日は試験の疲れが出たのだろう。


可愛い寝顔ねえ。美戸は苦笑した。美戸の幼なじみで幸太のクラスメイトのリンは、美戸と幸太が付き合い始めたと聞いた時、自分より可愛い彼氏なんて嫌じゃないの? とのたもうたものだが、残念ながらそれは認めざるを得ない。


美戸も大きなあくびをした。



「すみません! 美戸先輩。うっかり寝ちゃいました!!」


幸太は目を覚ました。見ると目の前の美戸も寝てしまっている。美戸の寝顔を見るのは初めてだった。


「可愛いな。」


幸太は呟いた。幸太はしょっちゅう美戸の夢を見るが、夢の中の美戸は幸太の願望なのか、ずっと美少女で巨乳だし、だいたい下着姿か水着姿でなんなら何も着ていないこともしょっちゅうだが、それでも夢の中の美戸より目の前の美戸の方がずっと可愛い。


「不思議だよな。」


幸太は再び呟いた。美戸が勉強を教えてくれるおかげで、とりあえず進級はできそうだ。4月から2年生か、楽しみだなあ。


幸太は小さなあくびをすると再び眠りに落ちたのだった。


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H・H・B 沙魚人 @hazet

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