第34話 Hands
2月下旬のある日の放課後。
「で、ここにxの値を代入して、、、」
「なるほど。」
幸太はいつものように美戸に勉強を教わっていた。テーブルの上で幸太の左手と向かいに座っている美戸の右手はつながれている。指と指を絡める、いわゆる恋人つなぎというアレである。
これは二人きりの時は彼氏彼女らしいことをしたいという美戸の発案であった。
幸太も最初はどきどきしてしまって勉強どころではなかったが、慣れとは恐ろしいもので、3日もすると何も気にならなくなって、むしろ集中できるような気がするのだった。
今日の勉強が終わって、幸太は美戸の手を離すとお茶の用意を始めた。勉強を教わっているのだから、これくらい当たり前である。美戸の希望で今日は緑茶にすると、湯呑みに急須でお茶を注いだ。
幸太がお茶の湯呑みを載せたお盆を持って振り向くと、今度は美戸がテーブルに左手を置いている。幸太はお盆をテーブルに置くと、湯呑みを美戸と自分の前に置いて、お盆を脇に寄せた。
幸太が右手を出して、美戸の左手にかぶせる。包み込むようにしてから美戸の手を起こすと手の平を合わせて指を絡めた。そのまま数秒たってから指を絡めたまま、手のひらを離して小さなテントのような三角形を作った。
「はああん♡ 幸太くんの手、あったかくて気持ちいいよ♡」
さすがに声には出さなかったが、美戸はよだれが垂れそうになるのを懸命にこらえた。
二人だけの時に美戸が手を出していたら、すぐ幸太から手をつなぐ。手のつなぎ方はこういう風にする。というのも美戸が決めたルールである。幸太は黙ってそれに従うだけだ。最も誰も見ている訳ではないし、美戸からの指示なので今や幸太には全く照れとか恥ずかしいという感情はない。むしろ幸太だって美戸と手をつなぎたいのだから、願ったり叶ったりという訳なのであった。
箸より重いものを持ったことのない幸太の手は白くて柔らかいが、それでも美戸よりは大きくて骨張っている。病弱な幸太は放課後くらいになると疲れてきて微熱が出ることが多い。それで手が暖かいのだが、そんなことは知らない美戸はこうして手をつないでいると幸太に守られている様な気がして嬉しく思うのだった。
二人は手をつないでお茶を飲みながら、しばらく他愛もない話をしていたが、ふと美戸は
「ねえ、幸太くん。」
「はい、美戸先輩。」
「リンちゃんの好きな子って聞いたことない?」
「たぶん、渡辺さんだと思う。」
「渡辺さん?」
「そう、同じクラスの
「はいいいいいー!!!???」
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます