第33話 Girl’s talk3

「エッヘッヘ〜♡。」


「気持ち悪。」リンは心の中で呟いた。


「佐藤くんに告白されて、付き合うことになっちゃったあ♡。」


美戸みとは臆面もなく、リンにのろけた。女子の親しい友人の間では秘密などあってないようなものである。自分が美戸と付き合い始めたのがリンに筒抜けだとは幸太は夢にも思わないであろう。


「へー、そうなの? 良かったね。」


チッ。リンは心の中で舌打ちした。大体、あの佐藤に女の子に告白する度胸などある訳がない。告白するよう美戸姉みとねえに強要されたに決まっている。リンの推測は当たらずしも遠からずといったところであった。


美戸はだらしない笑みを浮かべながら、焦点の合わない目で空間を見つめている。


学校始まって以来の才媛が見る影もないな。リンは心の中で吐き捨てた。

都立の中堅校の才媛だから大したことないだろうと思われるかも知れないが、美戸の場合はちょっと違う。希望すればどの高校でも入れるものを都立だから学費は安いし、自転車で通うのにちょうど良い距離だからとわざわざこの高校を選んだのである。


入学以来、試験ではぶっちぎりで学年首位をキープし、全国模試では常に上位の常連であった。




それにしても、こいつら、まだ付き合っていなかったのか?


本人たちは気づいてないかも知れないが、幸太と美戸は学校ではとっくにカップル認定されている。色違いのお揃いの自転車ペップに乗って、いつも美戸が先頭で幸太が後ろをついて行っているのは、もはや学内の風物詩のようなものであった。嬉々として美戸の後をついて行っている、そんな幸太を微笑ましく思う人は幸太のことをワンコと呼び、バカにしている者は、ポチとか犬と陰で呼んでいる。


見た目はどこにでもいそうな女子高生だが近寄りがたい才媛の美戸と、美少年だが病弱で顔色が悪く、がりがりに痩せているので、美少年の幽霊とか干物と言われている幸太。


そんな二人だけに、あまり羨ましくないと言うか、嫉妬心を掻き立てられないというか。幸太と美戸のカップルは学内では平和な存在なのであった。


「あのもやしのどこがいいんだか。」

「大人しくて素直で、私には絶対服従のところだな。」


美戸は真顔でしれっと答えた。


「ふーん。私だったら自分より可愛い彼氏なんて嫌だけどな。」

「しばくよ?」


「ヒッ!」リンは頭を抱えた。




「でも私は彼氏がいるのが、こんなにいいものだとは思わなかったな。大阪の色ボケ女の気持ちが少しはわかったような気がするよ。」


「リンちゃんには、この気持ちは分からないでしょうね。いつか分かる日が来るといいね。」


「バカにすんな! 私にだって好きな子くらいいるわ!」


「えっ!? 一体どこの誰? クラスメイト?」


しまった! リンは目を輝かせた美戸にしつこく問い詰められたが、頑として口を割らなかった。


やれやれ、幸せな奴というのは、どうして人のことに首を突っ込みたがるのだろう? 黙って自分の幸せだけを噛みしめていれば良いのに。そう思わずにはいられないリンなのでありました。

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