第13話 花の都

点在する明かり。

タクシーはその中を走り続ける。


東京が近づいているのだろうか?住宅の明かりがさっきよりも多く感じる。

大仏男は車に乗るとすぐにいびきをかいて眠り始めたが、自分は眠れなかった。

遠足前日の夜のように、妙にワクワクして眠れなかった。このふわふわした感覚も久しぶりだが、不安な時に感じる感覚にも似ている。前だったらすぐに薬を飲んで動機を抑え込んだが、今は飲みたくはない。

心地よい不安というやつだろうか。この先どうなるかわからないが、信じて進んでみよう。

光の流れを見ているうちに、いつの間にか男も深い眠りに入り込んだ。


「・・・・したよ」

「は、はい?」男は周りを見回した。

「お客さんつきましたよ、起きてください。」タクシー運転手は疲れた感じで言った。

「あ、はい。いくらですか?」

「高速代込みで、え~と、3万6千400円です。」

「あ、はい、ちょっと待ってください。」

「ちょい起きてくれ、ついたぞ」男は大仏男を揺さぶった。

「んあ?ついた?まだ外暗いべよ。今何時だ?」大仏男は目をこすった。

「4時50分です」運転手が答えた。

「はえ~な。」

「ともかく、お金出してくれ。36,400だ。」男は大仏男をせかした。

「ハイハイ4万な。釣りはいいよとっててくれ。」

「すみませんね~お客さん。ありがとうございました!」

タクシーが去ると男二人は周りを見渡した。

「どこだここ?」男が言うと大仏男は無言のままベンチに横になりそのまま目を閉じた。


「お、おい、また寝るのかよ?そんな大金持って盗まれたらどうすんだよ!」

「金はお前が持ってろ。明るくなったら起こせ~・・・。」封筒を男に渡すとまたいびきをかいて眠り込んだ。

どうしようか?俺もここでもうひと眠りするか?でも、二人とも寝込んでいる間に大金を盗まれたら大変だし・・・。とりあえずパンツの中に入れておくか。男は真新しブリーフパンツの中に封筒を押し込んだ。

男は周りを再度見回すと、ここはどうやらバスターミナルにいると気付いた。そして、すぐそばに自動販売機を見つけた。男はホットのコーヒーをけだるい体に少しずつ流し込んだ。

「・・・・うまい!」男はそういうと深く息を吐きだした。

男は空を見上げた。

うっすらと夜が明けているのを感じる。夜通しで外にいたのはいつ以来かな?妙な感覚が内臓を包み込む。さわさわと猫じゃらしが内臓をくすぐっているような感覚だ。この感覚は何だ?遠い昔に忘れてしまった感覚のような気がするがよくわからない。でもなぜか妙に心地よい。

男がふとビルを見ると、24時間営業のレストランの看板が見えた。どうしよう?あそこに行こうか?でも大仏男は起きそうにないし。。。男は目を閉じてどうしようか考え込んだ。すると体が深い闇の底に落ちていく感覚が男を包んだ。


「は!」男は起き上がり周りを見渡した。

いつの間にか眠り込んでいたようだ。あれ?大仏男がいない?

周りを見渡すと自分の膝の上に人の足がある!

「なんて寝相で寝てんだ!」

大仏男はベンチの下に上半身を入れ、足を男の膝の上にのせた状態で寝ていた。

「あ、あれ?」

さっきは気づかなかったが、夜は完全にあけていた。というより、バスに乗る乗客が変な生き物を見るような目で二人を見ていた。中には携帯で写真を撮るものもいる。男は急に恥ずかしくなり大仏男をたたき起こした。

そして二人はまたレストランへ向かうのであった。

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