第12話 タクシー

「まずな、すべてはお前の為にやることだってことを心に刻め。今までみたいに他人事のようにふるまうなよ?本気になって取り組めよ。」

「ああ、わかっている」

「本当にわかっているのか?」

「わかってるっての!」

「あーそうかよ。じゃああともう一つ。さっき男に必要なのは度胸って言ったよな?」

「ああ」

「誰だって何か行動を起こすのは怖いものだ。しかし普通の人は友達なんかと一緒に行動を起こしてその恐怖を乗り越えるが、結局最後は自分自身で行動を起こすしかない。」

「・・・・」


「例えばよ、明日1日でお前の彼女を作ってやるが、俺が手伝える事と、手伝えないこ事もあるってことは理解しろよ?」

「・・・・例えば?」

「例えばな、状況を作ることはできる。女がいるところに連れて行ったり、口説くチャンスは作れる。だがな、最後に手を伸ばすのはお前自身だってことだよ。」

「・・・・」

「わかってないようだから、もっとわかりやすく言うとな、いずれお前は彼女と最後まで行くには、二人っきりになるよな?それに俺は混ざれんだろ?だって3人でやるわけいかんだろ?ということは、女のパンツをおろすのはお前自身の手だってことを理解しろよ?」

「・・・・・・・まじ?」

「・・・おまえの性に対する感覚は中学1年生レベルで止まってるな。。。」

「・・・・。すまない。」男は眼鏡をかけなおした。

「まあいい。ここでもう少し度胸に関して話しておくか。」

「頼む」

大仏男は水を一口飲んだ。


「お前から見て度胸がある人間ってどんな人間だ?」

「・・・度胸がある人間?・・・やっぱりヤクザ?」

「じゃあ、なんでヤクザは度胸があるように見えるんだ?」

「なぜって、そう見えるから」

「みえるから?じゃあよ、手に機関銃を持った12歳の女の子と、熊の人形をもったヤクザ、どっちに絡まれたら怖い?」

「なんだよそのたとえ。」

「思考実験なんだから、どっちか答えろ。」

「・・・ヤクザが人形を持っているのはある意味怖いから。。。」

「・・・これだ。お前は相変わらず歪んでんな~。第一機関銃を持っている人間に勝てる可能性はあるか?熊の人形なら可能性はあるだろ?」

「・・・・・・」

「つまりよ、生きるか死ぬかって時は、相手が12歳の女の子だろうがヤクザだろうが関係ないんだよ。」

「・・・・」

「・・・・話についてきてるか?」

「・・・・なんとなく。」

「だめだこりゃ。夜遅いから脳みそもおねむか?」

「・・・・いや、まだ大丈夫だ。」


「あ~そうかい。じゃあな例えを変えよう。お前が普通の人と思っている人たちがいるな?その人から見たら、お前とヤクザはどういう風にみられていると思う?」

「・・・キモイオタクと、それとは真逆なおっかない人」

「・・・いや、残念ながら、普通の人から見れば、お前のような人間もヤクザも同じ世界の人間に見える。」

「俺がヤクザと同じように?」

「そう、同じく普通ではない人とな」

「そんな!」

「事実だ」

「・・・・・・なんでだ?」

「なんでって、お前の胸のポケットに入っているその薬は何だ?」

「こ、これは医者がくれた薬だから問題ない」

「じゃあ、闇医者が目が覚める怪しい白い薬をくれて、ヤクザが吸引していても問題ないんだな?」

「それとこれとは違うべ!」

「一緒だろ?お前が飲んでるのは下に落ちていくダウン系の薬。ヤクザが好むのは上に飛んでいくアッパー系。はたから見たらどっちも大して変わらんだろ?」

「俺の薬は医者が出す合法の薬だぞ!」

「戦前までアッパー系も合法で薬局で買えたぞ?」

「・・・・」

「まあともかく、はたから見たら一緒。普通の人が飲まない薬が必要な人間。」

「・・・・・・」

「つまりな、お前らみたいな引きこもりキモオタとヤクザは同じく両極端の存在。中心から見たら異端児なんだよ。」

「・・・・」

「今までお前は考えに考えた結果、結局恐怖が打ち勝ち何もできなかった。んで、病気だと思って病院に行ったら、ダウン系の薬を出されてさらに何もできなくなっていった。」

「・・・・・」

「まあ、医者を責めてもしょうがない。お前が何とかしてくれっていうから医者は処方箋を書いただけだからな。やっぱりお前自身の責任なんだよ。」

「・・・・・」


「ものの見方を少し変えればいい。今までお前から見てヤクザなんて全く別世界の人間だと思っていただろ?でもな、俺から見ると一緒なんだよ。同じ人間で同じく悩んでいる。ただ普通の人と比べて極端な思考に走りやすく、過去に異常に執着している人間。」

「・・・・・」

「んでよ、例えば俺が前科一犯それも殺人だったとする。お前ならどう思う?」

「どう思うって、よく人が殺せるなって思う。」

「だろ?じゃあ、俺がお前になんていうかわかるか?」

「・・・・なんだ?」

「いやいや、自分を殺せるお前も十分やべえよって。」

「・・・・・」

「まあともかく、お前も立派なはぐれものってことよ。」

「・・・・・」

「でな、ちょっと過去を思い出せ。お前をいじめていた奴らは普通の奴らか?それとも、将来ヤクザや引きこもりになるような人間だったか?どっちだ?」

「・・・・・・普通の人間。。。」

「だろ?あいつやべーよって言われている奴らはお前みたいのいじめてもしょうがないからいじめないはずだ。いたとしても、悪ぶっているただの普通の奴だったはずだ。本物ではない。」

「・・・・たしかに」

「よく言うべ。オタクにギャルは優しいって。ある意味同じなんだよ。普通になれなかった奴ら同志。」

「・・・・」


「だからな、考え方を少し変えろ。今までヤクザや暴走族みたいなやつらを見るとおっかなく感じてたろ?でもな、それは間違っている。あいつらはお前の反対側にいる人間だが、同じくらい中心から離れているから、ある意味同類なんだよ。つまり、あいつらが男だったら、お前らは女みたいなもの。んで、普通の人たちはどっちつかずの奴ら。さて、お前にとって恐怖するのは誰だ?お前が女だったら、男か?それとも男でも女でもない中性な奴らか?」

「・・・・・」

「お前にわかりやすい言葉で言えば、躁状態が彼ら。深く考えず行動をしてしまう人たち。ゲームで言えば戦士や魔法使いみたいな攻めキャラだな。うつ状態がお前ら。深く考えすぎて行動ができなくなってしまった人たち。ゲームで言えば戦う気全く無しの僧侶だな。そういう人たちを変な目で見る普通の人たち。町の住人だな。困ったときはそういう人達を求めるが、平穏を手に入れたとたん、邪魔者扱いしてくる。まさに七人の侍の世界。」

「・・・・・」

「躁状態からうつ状態に急に移行することもあるだろ?つまり彼らは将来のお前らである可能性があるんだよ。」

「・・・・・」

「つまり、お前はヤクザになれる気質があるってこと。だからって本当になってもしょうがないけどな。」

「・・・なんで?」

「なんでって、この世で圧倒的に数が多いのは普通の人。いくら頑張ってもオタクもヤクザも少数派なんだよ。だからな、いくらなれるからと言ってなる必要はまったくない。普通の人が思う普通とは何か?はいつも気にかけるようにしなければだめだ。それができなくなると3時間前のお前のようになる。だがな、ある意味お前がヤクザのような度胸を手に入れると最強になる。おっかない言葉、つまり魔法を使うヤクザと、妄想力と防御が最強の僧侶。この二つがくっつくと攻めも守りも最強な賢者の出来上がり。賢者を目指すか普通の人を目指すかはお前の自由だ。できれば賢者ではなく、勇者を目指せ。」

「・・・・・」


「まあともかく、極端な考えはろくな結果にならないから捨てたほうがいいけど、それで身についた度胸までは捨てるなってことよ。」

「・・・・・」

「お?タクシーが来たかな?」大仏男が外を見た。

「・・・・」

「よし、じゃあさっそく第一ミッションをお前に与える。」

「第一ミッション?」

「そうだ。多分、あのかわいいウエイトレスが俺たちにタクシーを来たことを伝えに来る。来たら、ありがとう!ところでお姉さんかわいいね!と言ってみ」

「!むり!そんなこと言えるかよ。」

「なんで?もう二度と会わない可能性が高い人間だぞ?」

「でも恥ずかしいだろ!」

「うんこ漏らしたお前に恥ずかしいなんて気持ちまだあんの?」

「関係ないだろ!」

「ともかく、何でもいいから会話をしてみろ!」

「・・・ンなこと言ったって!」

「お!おなごが来たぞ!」大仏男の視線の先にウエイトレスがあった。

「お客様。タクシーが来ました。」

「ほ、ほれ!」大仏男は男の腕をたたいた。

「あ、、あううあうあー」ろれつが回らない。

「あ、どうも、こいつもどうもっていてるよ」

「はい。。。」ウエイトレスはレジへ歩いて行った。

「なんだよ今のは」大仏男は笑っていた。

「・・・・」


「レジにあのウエイトレスがいるから、何でもいいから会計の時会話してみろ。ほれ、金だ。」大仏男は封筒から1万円を取り出して男に渡した。

「いいか?3時間前お前は自分の首にロープを巻き付けて飛んだろ?その時何を考え実行できた?」

「・・・・何も考えなかった」

「それ!それだよそれ!」

「それ?」

「そうだ、それが重要なんだよ。じゃあ、ルール1な。何かをやると決めたら考えるのをやめて、頭を空っぽにして実行する。」

「何も考えず空っぽに?」

「そう、今まで考えに考えて行動できなかったんだろ?じゃあ、やると決めたらもう何も考えずに実行しちまえ!さあ、会計に向かうぞ!頭を空っぽにして歩き出せ!」

「・・・・わかった。」レジまで10m。心臓がバクバクしているのがわかる。いうべきか?言わないほうがいいか?いや、考えるな!自分を変えるためだ。もうどうにでもなれ。男の姿を大仏男は3歩後ろで見ていた。

「お会計はご一緒でよろしかったですか?」

「はい」

「4千200円になります」

「じゃあ、これで」男は1万円を出した。

「おつりは、5千円と800円になります」

い、いけ!いまだ自分!がんばれ自分!

「あ、あの、お姉さんかわいいね。。。」どんどん声が小さくなって最後は聞き取れないぐらい小さかった。

「・・・・はあ・・・。」ウエイトレスは無表情だった。失敗か?あああああああああああ恥ずかし。こんなこと言わなければよかった。絶対変な人と思われた!

男がうつむいて固まっていると大仏男が近づいた。

「お!確かにこのウエイトレスめんこいな!お姉さん仕事終わったら暇?」

「はい?暇じゃないです。それに彼氏いますし。」

「まじ?どうせろくでなしの彼氏だべ?そんなのほっておいて俺ら3人で東京にでも遊びに行かない?」

「絶対行かないです。」ウエイトレスは大仏男をにらみつけると、大仏男はにっこり微笑んだ。

「あっそ。邪魔して悪かったね。おい、アニー行くぞ」

「・・・・・」二人は外に出た。


タクシーに運転手がのっていない。トイレに行ったようである。

「どうした?」大仏男が男に話しかけた。

「い、いや・・・。」

「ルールその2な。失敗をあれこれ悔やむな。失敗は成功の元っていうべ?」

「・・・・だけど失敗は失敗だろ」

「・・・んなよ、もし一発でお前が成功したら俺なんかいらねえだろ?俺と一緒のうちにできるだけ失敗しておけ。つうか、失敗を楽しめ。簡単にうまく行っちまったらすぐに飽きちまうだろ?この方法は駄目か?じゃあ、これならどうだ?そんな感じで色々試すのが面白いんだよ。自分で答えを見つける。まさにゲームだ。」

「・・・でも耐えられるかどうか・・・」

「俺とお前はな、例えればな、レベル1の遊び人と、レベル99の勇者で組んだパーティーみたいなもんよ。お前が傷ついたら俺が回復呪文を唱えてやっから心配スンナ。んで、あの女はレベル10の敵みたいなもん。今のお前が倒せなかったからって気にすんな。ロープレは始まったばかりなのに、1回目の戦闘の失敗でいちいちくじけてたらレベルも上がらんし、クリアできねえだろ?」


「・・・あんたも失敗したじゃん」

「・・・・レベル99の俺が倒してどうすんの?うまくいったとして本当にあの女がついてきたらどうすんのよ?邪魔なだけだろ?」

「で、でも、明日あんなにかわいい子と出会える可能性があるかどうか・・・」

「・・・お前な~。1つたまご焼きを作るための玉子は、一体この世に何個あるんだ?」

「・・・・どういう意味だ?」

「まだまだいい女なんかいくらでも腐るほどいるから心配スンナってことだよ。お?運転手が来たからタクシーに乗るか。」

「・・・・・」

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