愛を家まで送り届け、ひとりになった綾香は部屋でビールを呑んでいた。

 楽しい四日間だったと、綾香はこの四日間を懐かしむ。

 恋人と過ごす楽しい一時。決まって訪れるのは、別れと、その後に襲ってくる喪失感。

 いつまで経っても慣れないと、綾香は陰鬱とした気分になる。

 二人で過ごしたリビング。まだ彼女の匂いが残っているシングルベッド。

 愛の声を、笑顔を、温もりを思い出すと、綾香の胸はきゅっと苦しくなる。

 スマホを開き、愛とのトーク画面を表示させる。

 今頃、彼女は親戚が経営しているカフェで懸命に働いているのだろうか。

 一度、客として愛の働いている姿を見てみたいと、綾香は思った。

 会いたい、と打ち込む指を止めて、そこで、綾香は初めて気づく。

 ああ、私はこんなにも彼女のことを好きになったのだ、と。

 綾香は自分でも驚く。なにせ生まれてきてからこれまで、同性を好きになったことは一度も無かったのだから。

 綾香は理由を考える。粗を探すように、寂しさを紛らわすように、彼女を好きになった理由を考える。

 ぱっと浮かぶのは、愛の手首に痛々しく刻まれた自傷の跡。

 あの時、綾香は放っておけないと思った。

 庇護欲。それは恋愛というよりは、同情という言葉が相応しいのではないかと、綾香は考える。しかし、それだけだとしたら、綾香の火照る身体は、彼女に触れたいと思う衝動は、どう説明したらいいのだろうか。

 綾香は考える。答えが解っていながらも、綾香は考える。

 幾ら考えても、それ以上の答えは出てこない。

 綾香はどうしようもなく、恋に落ちていた。


 卑猥な音がホテルの一室に響き渡る。

 身体を委ねる。心だけは決して委ねたりしない。

 男は私のものを舐め、私は男のものを舐める。

 目を閉じる。意識を集中させて、綾香の温もりを手繰り寄せる。

 下半身が熱くなる。蜜が垂れ、身体が火照る。

 勘違いした男が、私のものをより一層強く刺激する。

 意識が逸らされる。現実に戻されそうになり、愛はきゅっと目を閉じる。

 手繰り寄せる。綾香の温もりを。手繰り寄せる。

「――やっ」

 私の中に、異物が入ってくる。

 意識を逸らす。綾香の温もりを手繰り寄せる。

「可愛いよ……愛ちゃん」

 ――現実に戻される。

「挿れるね」

 ベッドに仰向けにされる。身体が冷たくなる。

「はぁ……気持ちいい」

 耳障りな男の声に、愛は鳥肌が立つ。

 男が乱暴に腰を動かす。

 久しぶりの感覚。抵抗とは裏腹に快楽の波が押し寄せてくる。

「泣くほど気持ちいいんだ。えっちだね」

 勘違いした男が、私を壊そうとするように激しく動き出す。

 思わず声が漏れる。愛は自身が感じてることに気付く。

 しばらく動くと、限界が近いのか、男の動きがゆっくりになる。

「今度は愛ちゃんが動いてよ」

 私の中から抜き、男は仰向けになって言う。

 愛はゆっくりと男に跨る。そして、男のものを自分で挿れる。

 挿れたまま腰を動かす。男の厭らしい目に構うことなく、腰を動かし続ける。

「えろいなあ」

 にやにやした顔で、男は愛の小ぶりな胸に手を伸ばす。

 男の言葉に、愛は見下されているような気がして厭になり、脚を立てる。手を男の腹に置き、咥えるように男のものを出し入れする。先とは違い、男の余裕は消え、気持ちよさそうに声を漏らす。

 笑みがこぼれる。だらしない男の姿が滑稽で、愛の身体はさらに熱を帯びる。

「ねえ、気持ちいいの?」

 愛は囁いて、男の胸を弄る。

 男の息が荒くなる、愛のものから更に蜜が零れる。

 より激しく、愛は動き続ける。

 軽い快楽の波が押し寄せ、愛の身体が震える。それでも愛は動きを止めずに、男を攻める。男のものと愛のものが交る度に、部屋中に厭らしい音が響き渡る。

 好きでもない男と身体を交わせ、そのお金で私はこれからも“普通”を演じていく。

 ああ、私はどうしようもなく汚い女だ。

 それでも――、綾香さん。

 私は、あなたのことを愛しているのです。

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