友情は諦めとともに

 結果は想像の通りに終わった。


 大田が踏み込んで距離を詰めようとしたときには、如月が大田の眼前に迫ってきていた。


 それに気づき慌てて対応しようとしたが時すでに遅し。


 彼がガードをするよりも早く、如月が剣を鞘から出す勢いで柄を腹に叩きつける方が速かった。その一撃で大田は3メートル程吹き飛びゴロゴロと地面を無様に転がった。


 親分がやられたと見るや否や、即座に取り巻きが逃げ出した。


 逃げ出した子分達に止まるように訴えたが、子分達はその時にはもう声が届かないところまで離れていた。


 そんな大田に如月たちが同情の言葉を送ったが、彼はその言葉でさらに逆上し、逃げるように走り去った。


 走り去って行く大田を追いかけようとした如月一行は、喧騒の音を聞きつけた魔物たちがやってくるのが見えたので追跡を断念せざるを得なかった。


 当然大田のほうにも何匹か向かっていた。


 背中を見せ、無防備に走っている者など魔物にとっては恰好の獲物でしかない。


 このまま襲われれば殺される前に入り口に強制転移されはするが、それでも大怪我はするだろう。


 散々威張り散らして喧嘩を吹っかけて、挙句の果てには無様に負けて脇目も振らずに逃走とは。


 自業自得と思った。痛い目を見れば少しはとも思った。


 だが・・・、優人は聞いてみたかった。いったい何故あんな事をするのか。どうして威張り散らしたいのか。


 だから救ってやることにした。


 10キロ先で大田がようやく魔物に追いかけられていることを認識し、その拍子に躓いて絶叫を上げている様子が見えた。


 そんな哀れな獲物に飛び掛ろうとした魔物4匹の頭部が唐突に消失。大田のすぐ目の前にどすんと死骸が落ちた。


 突然の出来事に呆けている大田の背後に音もなく着地した優人は、使い魔達と目を合わせ軽くため息をしてから大田に声をかけた。


 声をかけられた大田はびくりと身を震わせバっと背後を向き、人であることを確認して安堵の声を上げた。


「た・・・たすかった」「はは・・・災難でしたな坊ちゃん」


 どうやら腰が抜けたらしく立つのに難儀していたので、手を貸して立たせてやった。


「なぁあんた、ひとつ聞いていいか?」「な、なんだよ」


「何だってあんたは如月たちに喧嘩売るんだい?」そう大田に彼は問いかけた。理由が知りたかった。明らかな格上、明らかな格下。それでもなお挑みかかる理由を彼は知りたかった。


(まぁ大体わかるがね、お山の大将殿)「で?なんで?」「そん、そんなの!決まってるじゃないか!」


 どうしてと聞かれ、怒りをこめながら突っかかる理由を吐き出してゆく。


「あいつらより俺のほうがすごいんだ!俺のほうが・・・俺のほうが・・・」まるで自分に言い聞かせるように何度も何度も自分のほうが凄いと吐き出す大田に、優人はどんどん表情が無くなっていった。


「はは・・・、あんたずいぶん自分のことを大きく見てるんだな」「なにおう!」


 そんな様子の大田についそんな言葉が口から出てしまった。


(は?おいおいおい!やめろ俺ー!それ以上言うなー!)「どうせお前小学校とか中学校とかで一番だったんだろ。そんで高校になってから自分より凄いのが沢山いるってのが受け入れられないんだろ?」「ち、ちが「違わないさ」


(止めろー!)「前まではずっと一番だった、もしくは一目置かれる存在だった。でも今は違う。お前はとうとう自分よりも大きな存在に目を向けざるを得なくなったわけだ。同じ学年だもんな、いやでも目に付く」


「よーし現実を上手に見れない貴方にオイラトドメ刺しちゃうぞ~!」「なっなにを」


「お前別に誰かに見られるような存在じゃないからな」「な!」


 優人からの宣告に違う!と否定しようとしたが、その感情のない真っ黒の瞳に見つめられ、何も言えなくなってしまった。


「お前さ、たかが中小企業の社長の息子だなんてたいしたアドバンテージじゃないってことをさ、いい加減知るべきだぞ」


「俺らみたいな凡百の徒が、あんな選ばれし使徒に何か勝てる要素が一つでもあると、お前本気で思ってるわけ?」


 優人にそう問いかけられ、大田は力なく首を横に振る。


「何だわかってんじゃないか。そういうことさ。俺らじゃどうやっても奴等に勝てるところなどない。注目を浴びることなど出来はせぬ」


 そう長々と説明した彼は「つまり結論を言うとな、注目される事をあきらめて大人しくしろって事さ」と結論を無感情に言った。


 優人に結論を叩き込まれ「そ・・・そんな・・・」と大田は一歩二歩と後ずさり首を振った。


 そんな様子の太田を無視し、彼は歩き出した。


 そして去り際に「まあ今回のことはよかったんじゃない?だってようやくお前はたいしたことないって現実を知ることが出来たんだからね」と言った。


「あ・・・・待ってくれ~!置いてかないでくれ~!」とすがり付いてくる太田を地上に残し、優人は飛び去っていった。


 後に残された大田は、どんどん小さくなっていく優人を呆然と見つめていた。


 見えなくなってしばらく佇んでいたが、やがてトボトボとダンジョンの出口に向けて歩き始めた。


 そうして2回目のダンジョンワークは終わった。



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 次の日


 朝錬が終わった吉田が、途中で大平と合流しだらだらと喋りながら教室に向かっていた。


 教室のドアを開け、いつものように優人の机前でだらだらしている加藤と優人に話しかけようとして、一人多いことに気がつく。


 その一人が大田だとわかった途端びっくりして大声で、優人に何で如月達がいないのに大田の奴がここに?と聞いてきた。


「うるせーなー・・・、しらねーよー・・・何でお前ここにインだよ成金野郎」「誰が成金だ誰が!」


 と問われても優人は気だるそうに全くわからないと吉田に言い放ち、ついでに大田を馬鹿にした。


「いや~僕もよくわからないんだよね。僕が教室に来たときにはいなかったんだけど、いつの間にか話に加わっていたんだよね~」と語る加藤にそうだそうだと優人が同意する。


「いやわかんねーよ!どーいうことだよ!」「なんか変なのが増えまシタね~・・・」


 と新たに加わった変な奴に、二人はついそんな言葉をこぼしてしまった。


 何はともあれ、いつもの4人が5人になり、より会話がグダグダになったのは言うまでもない。

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