キノコノコノコゲンキナコ

 休日の早朝、彼はダンジョンへ向かうために空にいた。


 爽やかな早朝の空気とは裏腹に、彼の顔は非常にうんざりした表情で歪んでいた。


 何故か?


 その理由は至極単純。彼は元々今日は家でゆっくり休むと昨日の内から決めていた。使い魔達にも口酸っぱく言っていた。明日は何もしないと。特にジンベーとオールには念を入れて。


 だが、口酸っぱく言ったにも関わらずジンベーとオールは言いつけを無視。


 午前五時ちょうどにジンベーは腹の上に、オールは額にそれぞれ陣取りホーホーキューキュー鳴き喚き、仕舞いには白玉とモグドンまで加わり彼の計画は始まる前から完全に破綻した。


「お前らさ~俺昨日散々言ったよなぁ・・・、今日は何もしないってよ~、今何時だと思ってんの?まだ六時になったばっかだぞ!アホか!」


 怒るご主人の言葉を使い魔達は聞き流し、好き勝手に鳴き喚き落ち着きなくモゾモゾ動き回っていた。


 そんな使い魔達の様子に優人はやり場のない怒りを浴びせてやろうとしたが、いくらなんでも情け無さすぎるとも思ったので、どうにかその怒りを鎮火させることにした。


 確かに今の彼は子供だが、中身は今の倍以上生きてきた大人なのだ。吐き出せば良いというわけではない事を彼は知っていたので、使い魔達に怒りをぶちまけず鎮火させることにしたのだった。


 そしてこう思った。


 自分は散々世話になっておいて、少し何か頼まれたらノーを突きつけて何もしないだ?優人君や、それは少々都合がよすぎるのではないかね?


 確かに使い魔は従僕だけど、それが無下に扱って良いという理由にはならないよね?


 今日が潰れたかといって死ぬわけじゃないし、そもそも明日だって休みじゃないか。今日は活動する日にしてよ、使い魔達を満足させてさ、明日堂々と何にもしない日にしてやればよかろう。


 なんたって普段世話になってるし、何よりほら!何かかわいいじゃん?


 そう考え一人納得した彼は目的地に着くまで好きにさせる事にした。


 彼が向かったのはマッシュルームの森というダンジョンだった。彼の家から電車で三十分ほどのところだが、オールに飛んで行かせれば数分でたどり着けるところだった。


 ダンジョン入り口にたどり着いた彼は、さっそく入るために受付で手続きを済ませとっとと入っていった。


 ダンジョンの中は薄暗い森で、何よりも目に付くのは四方八方に生えている様々な種類のキノコである。


(まんまだよな~)ダンジョンの名称を心の中でそう思いながら使い魔たちの点呼をしようとして、白いのと迷彩がポジションにいないことに気が付く。


 どこに行ったかキョロキョロ見回し、ある地点でキノコに一心不乱に噛り付いているウサギとモグラがいるのを確認してあきれ顔で近づいた。


「何やってんだお前ら・・・」「・・・・・・!」)(汗)「モグー!」


 あきれながらもとりあえず白玉とモグドンが満足するまで待つことにした優人は付近のキノコをむしり取り、むしゃむしゃと食べ始めた。


「おっこれうま」「・・・・・・・!」(汗)「モグモグ!」


 しばらくむしゃむしゃと食べていると頭をペシペシとはたかれ、右頬を突っつかれた。どうやらオールとジンベーが早く動けと彼に催促してきたようだ。


「おらお前ら、もう行くぞ」と、まだキノコにしがみついている白玉とモグドンをつまみ上げてポジションにつかせ、ようやく彼らは入り口から移動を始めた。


(やばいな・・・何しようか何も考えてなかった)


 まったく今日はどこも行く予定がなかったので、目標やターゲットになるものを全く決めていなかった。その上、彼は今日初めてマッシュルームの森に来たので何があるのか何も知らなかった。


 それが致命的であることくらい承知している。だから彼は非常に注意して、この奇怪な森の中を進んでいった。


 右を見てもキノコ、左を見てもキノコ、正面には木と同じような見上げるようなキノコが、背後には足を持ったキノコがでたらめに走り回っていた。


(やっぱおかしいだろ・・・)走り回るキノコをつまみ上げ、まじまじと見ながらこの森の奇怪さに改めて小首をかしげるバカが一人。


「そろそろ・・・フガフガ・・・そろそろ何か仕留めるか・・・」摘まみ上げた走りキノコを咀嚼しながら、彼は使い魔たちにそう言った。


 付近(10キロ圏内程)に何か手ごろな魔物はいないか探し、目星をつけた魔物のもとへ向かうことにした。


 そして目星をつけた魔物が目視で見える距離まで歩いて行き、銃を構えて撃つタイミングを図った。


 距離は1キロほど、そこに頭からキノコを生やしたクマが、何をするまでもなくうろうろしていた。


(うわぁ・・・当たり前のように動物にも生えてる・・・)当然のように動物にも生えているキノコに彼は絶句しながら射撃。キノコとクマにとって致命的な部分を撃ち抜き、絶命した事を確認してからノタノタと近づいて行った。


 手早く解体した彼は頭に生えていたキノコをむしゃむしゃと食べながら、とりあえず鍋にでもするかと考え材料を集めるために付近を漁り始めた。


 ジンべーとオールはクマ肉を食べてご満悦そうにゴロゴロ鳴いた。

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