触手片は荒野に沈む
あの不穏な視線を感じてから数日が立ち、また授業でのダンジョン実習の日がやって来た。
「はい、え~第一回目のダンジョン実習は班でしたが、第二回目以降は各自の判断でダンジョンに入ってください。班を作るも良し。ソロでも良し。いいですか?ダンジョン探索は自己責任!以上!解散!」
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「あれ~?う~ん、いないな~・・・」と加藤は、なにかを探しているのだろうかキョロキョロと辺りを見回している。
「おーい加藤、見つかったか~?」「見当たらないねぇ・・・」
吉田、加藤、大平の三人は何やら探し物をしているようだ。
程なく大平も合流したが、やはり収穫はなかったようだ。
「ちくしょう佐藤の奴、いったいどこ行ったんだ?」
どうやら彼らは優人のことを探しているようだ。
「開始した直後の時はいたんだけどね・・・」「僕たちが集まったときにはもういなかったっぽいデスね」
そんな風に優人を探しながら、時折こちらとエンカウントするトカゲ魔物を三人でタコ殴りにし、4回ほどの襲撃を撃破した辺りで、加藤が何かに気づいたらしく足を止めた。
「どしたの?」「何か匂うんデスか?」
疑問に思う二人をよそに、加藤は一心不乱に鼻をひくつかせ、臭いの方角を探ろうとしていた。
探り始めてから数分、ついに加藤は探り当てたようで、その方角に向けて、二人を伴い走り出した。
「何かわかったの?」「うん。これは焼けた肉の臭いだね」「肉デスか」
吉田からの問いに加藤はそう答えた。
臭いの元凶は、さほど離れた場所ではなかったようで、すぐに発見できた。
どうやらそのにおいを察知したのは加藤たちだけではなかったようだ。そのにおいの元凶に人だかりができていた。
「何だあの人だかり?」吉田が疑問の声を出す。
「う~んいい香り」と加藤はフラフラと件の人だかりへと近づいていく。
そんな様子の加藤に、吉田と大平は顔を見合わせ、肩をすくめながらその後についていった。
人だかりの中を何とか突破し、中央にいるものを確認しようとした。そしてそこにいた者は・・・・・・
「おおおおお前ら、この触手片は俺のもんだぞ!欲しけりゃ自分でとって来い!そんな強くないんだからさぁ」優人が群集に向かって威嚇しながら、その背後にある大きな肉を守るかのように立ちはだかっていた。
「何やってんだお前?」そんな様子の優人にあきれた顔で吉田が問うた。
「あっ!お前らも俺の触手片を奪いに来たのか!わたさんぞ!」「いらねーよ!」
そんな問答をしている二人を無視し、加藤は焼かれている大きな肉塊をうっとりとした表情で眺めた。
「あぁ~おっきいお肉・・・・・ふんふんふんあ~タマラナイ・・・」と匂いをかいで幸せそうにそう呟いた。
「うう・・・なんでこんな多いんデスか・・・・」と2人より苦戦して群集を難儀して掻き分け、優人とその大きな肉塊を見て仰天した。
「うわぁ!何デスかこの大きなお肉は!」と優人にこの大きな肉は何かと聞いた。
「あぁこれね。これは触手片さ」「触手片?」
「そう触手片。こういう荒野とか洞窟とか、とにかくいろんな場所に生息しているマザーテンタクルっていう生物の触手さ。しかもその触手は切り離されてもミミズみたいに生きてるんだ。だから普通に物を食うぞ。増えはしないけどね」
優人からの説明を聞き、大平はなんじゃそらと意味がわからないといった表情を向けた。
「ねぇ佐藤、早く食べよう!」「お前人の話聞いてた?!これは俺の、おれの・・・」
そう言って周りを見回すと、群集が無言でじっとこちらを見つめているではないか。いつの間にか吉田も大平もその中に加わっていた。
「え・・・・・?やだよ・・・・・・?わたさないよ・・・・・・・?」「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・?」
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「うめうめ」「やったぜ!」「おいしー!」「おい!お前のほうが大きいじゃないか!」「知るか馬鹿!」
結局、彼は群集に肉を明け渡すことになってしまったとさ。
「グググ~!」
そんなご主人を、モグドンと白玉はボケーッとした表情で眺めていた。オールとジンべーはムシャムシャと触手片の残りを食べるのに忙しく、見てすらいなかった。
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