第9話
学校へ向かって徒歩で歩いている途中で、如月の声が遠くから聞こえる。優人は要注意人物としている者の声や動作の音に非常に敏感で、これにより気づかれる前に逃走することにしている。何十キロも離れた先から。
どうやら如月たちは荒野ダンジョン入口前で誰かと口論しているようだ。
如月たちのようなスーパークソガキ共にケンカを売る奴なんてアイツしかいない。そう思い、口論を遠くから聞いてみることにしていた。
『お前みたいな下層存在が、俺よりも先に並ぶなんて生意k』そこでもう打ち切った。あまりにもどうでもいいことだったから。
(また如月に嫉妬した大田の野郎か・・・)
大田
大田株式会社という中小企業の社長の一人息子。散々甘やかされて育ったのが透けて見えるような雰囲気を身に纏っており、きっちり揃えられた七三分けの黒髪で、陰気そうな印象を受ける顔立ちをしていた。そしていつも頭の悪そうなハイしか言えないような取り巻きを連れて学校中を我が物顔で練り歩いていた。
そんな彼を優人は、典型的な親の力を過信した底抜けの愚か者、といった評価をしていた。・・・今のところ話したことも視界に入ったこともないが。
如月たちと大田が口論をしたのは何もこれが初めてのことではない。
如月が何かしたと聞きつけるやら瞬時に駆け付け、自分のほうがすごいだのお前なんかよりも自分のほうがもっと上手にできるだの言い喚き、駆け付けた優菜が加わりさらに話がこじれ、見かねた桜が仲裁に入るというプロセスは、もはやお約束の域に達していた。
傍から見たらコントにしか見えなかった。自分がまきこまれる心配がなく、しかも自分よりもスゴイ奴が最高に嫌な気分になっていく。
なんと素晴らしいことか、自分が巻き込まれることはないという確信があるそんな光景を見るたびに優人はいつもそう思う。その上、そういう光景を見れば、多少なりともあの怪物たちがただの人間に見えてくるような気がするから。
そんな考え事をしていたら、いつの間にか校門前に着いていた。
『----------(怒!)』『---------(怒!)』
(まだやってんのか・・・)
ホームルーム前に荒野ダンジョンへ行こうとしていたが、連中と関りたくなかったので、あきらめて教室に向かうことにした。
幸い教室には加藤と大平が居るので、退屈はしなかったが。
途中から朝練が終わった吉田も加わりグダグダな話になっていく。
そうやって友達と素晴らしく薄口の青春を味わっていると、教室のドアが乱雑に開かれ、肩を怒らせた如月と優菜が、そのあとに少し遅れて桜が入ってきた。
そんな様子の二人に教室にいる者全員が、あぁ、大田に絡まれたんだろうなぁとひっそりと思ったのは言うまでもない。
「あ”-!結局入れなかったじゃない!何なのよあいつー!」「うがー!うぜー!」
怒れる彼らにクラスメイト達は、しょうがないさ大田だもん、あんなやつのことはほっとけ等と慰めの言葉を贈る。
「まあまあ、今回は入れなかったからって、もう二度とは入れないなんてことはないんですから、ね?」
桜からの言葉にクラスメイト達もそうだそうだと口々に便乗し、ようやく二人は落ち着くことができたようだ。
「あーあ、ミルクワームが・・・」そう優菜が思わず愚痴をこぼす。
「あ、そうだ。おーい!佐藤ー!おーい!」優菜のミルクワームという言葉で、あっそうだ、と如月が優人に何か言うためにこちらにズンズン近づいてきた。
(ウギャー!こっちくんな!)「な、なんぞ」困惑する優人にお構いなしで如月が話しかけてくる。
「昨日さーがっこのダンジョンど、ほら荒野のほうね。それでさー全然ミルクワーム見つけられなかったんだ!」
「そうよ!」いつの間にか近寄ってきていた優菜が力強く便乗してきた。
「ぜんっっっっ然いないのよ~!」そう言って優人の襟をつかんで、思い切りがくんがくんと揺さぶってきた
「ぎゃー!」「こらこら芽衣ちゃん興奮しすぎよ~」
がくんがくんと揺さぶられる中、何か刺すような視線に気が付いた。
その視線の方向に目を向けると、ドアの隙間から大田がこちらを睨み付けているのが見えた。
(あっ終わった・・・)薄れゆく意識の中、最後に浮かんだ言葉はそれだけだった。
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