少し昔のお話
それは優人が中学生の頃のことだ。
その日彼はいつもと違うダンジョンへ行こうと思い、いつものダンジョンより少し遠めのダンジョンに入っていった。
このダンジョンは草原のようになっていて中心付近に大きな池がある、といったくらいのあまり特徴がないダンジョンであり、そこまで強い魔物はいないので初心者にとっては入りやすいダンジョンとなっていた。
だが草原だけあって遮蔽物があまりなく、できる限り発見されたくない優人にとってはなかなか厳しいダンジョンとなっていた。
なのでいつも以上に慎重になっていた。
「うーんはいったのはまちがいだったかしら・・・」
入ってそうそう、だだっ広い草原を見て彼は入らなければよかったと早くも後悔していた。
だがそんな優人に抗議するものが一人・・・
「・・・・・・・・・!」(汗)
と草原を走り回っていた白玉が、優人が口に出した言葉にえらく反抗した。
「えー・・・、はぁ、しょうがねーなー・・・」
そんな様子の白玉にしぶしぶ了承してやり、のそのそと歩き始める。
そんなこんなで白玉のわがままに付き合って、ダンジョン内を徘徊した。
そうして中心部の池が遠目でうっすら見えるあたりで、異変に気が付いた。
常人には感じられないだろうが、優人にはわかる。空間が波打っている。これは時空間異常の前触れに違いない、と優人は思った。教科書や本で何度も読んだ。間違うはずもない。が実際に目にしたのはこの時が初めてだったので、酷くうろたえたのを覚えている。
そして時空間異常があった後には、空間がさらに広がるか、付近のダンジョンと結合してしまうか、別の場所にいた生物が飛び出してくる等さまざまなことが起きる。
今回は何かが飛び出してくるだった。空間の揺れが最高潮に達したとき、波打っている空間から何か大きなものが飛び出してきた。
(あっあれは・・・!)
空間から飛び出してきたのは俗にいうワイバーンと呼ばれる種だ。ドラゴンの末端のような存在で、本来ならばこのような場所では出てこないような大物であった。
体長は平均6~8メートルほどで、過去に最大10メートル越えの個体が出てきているが、今回出てきたのは平均的な7メートル級の個体だった。
ワイバーンはしばらく何が起きたかわからないといったように辺りをきょろきょろと見回し、やがて池付近で自分に向かって威嚇の声を上げているウシ型の魔物に向かって急降下、容易く頭を噛み千切り殺した。
(うへぇ・・・、あの牛初心者なら手こずる強さなんだが・・・)
初心者とはいえ自分よりもはるかに身体能力が高い人が苦戦する相手を、たやすく、それも全く本気を出さず殺した怪物を、彼は恐れた。
(これが生物としての力の差か・・・)
あの牛の強さをある程度把握しているからこそ、そんな存在を容易く屠るワイバーンの姿に戦慄した。
こんな存在がこの世に溢れていることに、そして自分のあまりの矮小さに。
しかも距離は
それならばいっそ・・・。優人は銃を構えた。
それならばいっそ殺してやる!
頭の中はばれるなの文字で埋め尽くされていた。そして攻撃が効いてくれと。だが優人のその思いは完全に気優だった。
ワイバーンに長距離を索敵する能力はないし、そもそも優人に気づいてすらいない。
だが優人にはそんなことはどうでもよかった。
自分にとって少しでも大きい存在はすべて等しく脅威でしかないからだ。距離など関係なかった。あんな恐ろしい光景を見せられて、それ以前にあの怪物の放つすさまじい気が、彼を心の芯から震え上がらせた。
だから彼は今できるありったけの強化を弾丸に施した。
弾丸強化、性質付与、音による加速と超振動による威力増大、とにかくありったけかけた。
恐ろしいから、死にたくないから。
空腹を満たし、今度は水分を補給しようとして池に口をつけようとした瞬間、彼は撃った。超音速で発射された弾丸は、ワイバーンの頭を優人が懸念していた弾かれるといった考えごと貫き、そのまま勢いを落とさずに彼方へと飛んで行った。
ワイバーンは何が起きたかを考える間もなく命を落とし、そのまま地響きを立てて倒れた。死んだことにも気づかずに。
どうせ弾かれると読んでいたので、造作もなく死んでいったワイバーンの光景を、信じられないといった表情でぽかんと口をあけて愕然としていた。
使い魔たちに小突かれるまで優人は動けなかった。現実を受け入れられなかったから。あんな大物倒せるとは思っていなかったから。
使い魔達に小突かれ、ようやく彼は解体のためにワイバーンに近づいて行った。
そうして解体し、食べる用と装備の強化用の物以外売却した。
ギルドはポイント制で、一定のポイントに到達するとランクが上がるといった制度をしている。ポイントを上げるには、素材の売却や魔物の討伐などでポイントが付与される。付与されるポイントは魔物によって変わり、特に危険度の高い生物の討伐により大きくポイントが上がる。
ランクが上がるごとに到達ボーナスといったサービスや、ワープの料金が安くなるや、買い取り価格にボーナスがつくといった恩恵がある。
ちなみに何を倒したかは、倒した時に免許に自動登録されるので、別の人が倒しました、ということにはならない。抜け道はいくつかあるが・・・。
そういうわけで、ワイバーンという大物を倒し、それによるポイントで彼はCランクになった。
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