ミルク味の不幸
「本当に偶然だったんだ・・・」
過去からの回想から思考を今に戻し、偶然だったと強調してもう一度念を押すようにそう言った。
「な~んだ。じゃあそんな強くないんだ」
Cランクになったのは偶然だった、と語る優人に、優奈はあからさまな落胆の言葉と表情をつくる。
「え~、ぐうぜん~?マジかよ~」如月も同じく偶然と聞いて思わずそんな言葉をこぼす。
桜は何とも言えない微妙な表情でこちらを見つめている。
(揃いも揃って何だ!テメー等免許すら持ってないくせに!学校のと違っていろいろ大変なんだぞ!)そんなものを浴びせられ優人は酷く怒ったが、顔にはおくびも出さず、曖昧な表情でお茶を濁している。
(糞が!これぐらいの年のガキは強けりゃいいと思ってやがる!馬鹿が!重要なのはいかにうまく稼ぐかだろ!)
だが、さすがにこのまま評価を落としたままにするわけにもいかない。このいけ好かない糞餓鬼どもは非常に人気者なのだ。こいつらが「こいつは役に立たない屑です」などと言いふらしたら、この学校のガキどもは嬉々として彼を壊そうとしてくるだろう。如月たちが役に立たないと言ったからという大義名分を引っ提げて。
それだけは決して避けねばならない。そのためにしなければいけないのは、こいつらを喜ばせること。
それならば簡単だ。うまいものを食わせるとか金になるやつを探り当てるとかすればいい。
なので優人はまずこの糞餓鬼どもの腹を満たしてやることにした。
「う~ん・・・、つまりランクに見合った働きをすればいいってことか・・・」と優奈達に聞いてみる。
「ま~そうね。立てればだけど・・・」「そうだよ」「ですね~」ランクに見合った働きをすればと言われ、落胆した表情のまま3人はそう返す。
「あいわかった・・・、おいジンベー、やるぞ」その言葉を聞くや否や、優人はジンベーと一緒に音波を飛ばし始めた。
「何してんの?」と優人達の行動を怪訝そうな顔で見つめる3人。
「な~に・・・ちょっとしたプレゼントさ」
優人達が音波を飛ばし始めてすぐにそれはおびき寄せられた。大好物である小型動物の足音を追って。
そして彼等から10メートルほど離れた個所から何かが飛び出してきた。
「うお!」「えっ何!」「あら」
地面から出てきたのは太さは平均的な成人男性の胴と同じくらいの太さで、体長は2メートルほど、乳白色の体を持つミミズのような魔物だった。
「ギャア!キモい!」と地面でのたくっているミミズ魔物に3人は、特に優奈が絶叫する。
そんな様子を内心でざまぁみろと思いながら、手慣れた様に頭部を吹き飛ばし、解体していく。
解体しながら、この怪ミミズについて知っていることを簡潔に説明していく。
「こいつはミルクワームっていってな、こういう荒野みたいな所でよく見かけられるんだ。で、好物の小動物の足音を聞きつけたら今みたいに地面から急襲して一息で飲み込むんだ」
優人からの説明に、ほとんどミルクワームに意識を持って行かれている3人はただ黙って話を聞いている。
「でっでも、ここには小動物なんていないぜ。いったいどうしてコイツはここに?」
如月からの疑問に一切答えず、優人は一番伝えたいことを話し始める。
「なぁ、あんたたちはコイツが何でミルクワームって名前になったか分かるかい?」
そう優人は問いかけるが、3人は知らないといった様に首を横に振るった。
「良し、じゃあ試しにこいつの体液を舐めてみなよ」「エッ!無理無理無理!」
舐めてみろといわれ、やはり優奈が思いきり飛びのき拒絶してきた。
「まあまあ、別に死ぬわけじゃないんだから・・・」「いーやーでーすー!」
そんな問答を横目に見ながら、如月と桜は優人に言われたとおりに、おずおずとミルクワームの体液をなめてみた。
瞬間、彼らに電流走る。
二人は顔を見合わせ同時に叫ぶ。
「「あまーい!」」
「は?甘いの?!」ワームの体液が甘いものだと知るや、優人を押しのけ、ワームの体液を両の手で掬い、音を立てて飲み始めた。
「ほんとだ甘~い!」「だろだろ!」
(いてぇ・・・)「これでコイツがミルクワームて呼ばれる意味、わかったろ?」「わかった!チョーわかった!」
「そんでな、コイツ体液だけじゃないんだよ」そう言って今度は肉を切り出し一人一人に手渡した。
3人は期待した表情でまったく躊躇なく肉にかぶりつく。
「もちもちしてて美味しい!」「うめうめ」「すごいですね!こんな生物がいるなんて」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
そう思いながら自分も食べようとミミズに目を向けた。が、もうすでに最後の一口は優奈の口の中にあった。
(なんて奴らだ!こいつら全部食いやがった!)驚愕している優人をよそに、幸せそうに最後の一口を咀嚼している優奈と、それと同じくらい幸せそうな表情の二人。
「さあ、あんた何やってんのよ!次!次よ!さあ!」と、そんな心情の優人をまるで無視し、優奈は鼻息を荒くしながら催促する。
「次?次って何ぞや?」「おかわりよ!」
(マジかよ!)
断るわけにはいかなかった。自分のこれからの学校生活が懸かっていたから。
それからはひたすらミルクワームを集合時間いっぱいまで狩らされ、結局ワームを口にすることはできずに、初めてのチームでのダンジョン探索は終了したのだった。
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