不運の始まり
(どうしてこうなる・・・)「よっしゃー!今日はがんばるぜ!」「フン!足手まといにならないでよね!」「よろしくです~」
ダンジョン内を元気よく闊歩する如月達の後ろ姿を死んだ目で見つめながら、優人は誰にともなく愚痴をこぼす。
ここはもう一つの学内ダンジョンで、もともとは学校の校庭だった。
だが突如時空間異常が発生し校庭がダンジョン化。まるで荒野のようになっていた。そのため急遽新しい校庭を作らねばならなくなったのはまた別の話。
何故優人は、絶対に近寄りたくないと言っていた如月グループと一緒に居るのかというと・・・。
時は少々遡る。
この世界の大半の学校はダンジョンに関する何らかの人材育成に積極的だ。
例え専門学校ですら、ダンジョンについての最低限の事項を学ぶのである。
この名月高校もそんな学校のひとつで、ダンジョンについて学ぶ座学と実際にダンジョンに出て体験して学ぶフィールドワークがある。
名月高校はフィールドワークのために、丸々一日を使ってダンジョンに入り、チームで探索したり、訓練を行ったりしている。
「は~い、静かに。もう入った人も入るでしょうが、入っていない一年生の人向けに説明を---------」
(チームで入るのは確定なのか・・・)
優人はダンジョンにはそこそこの頻度で入っているが、授業として、そしてチームで入るのは人生初のことだった。
(はぁ・・・、そもそも俺達は俺達だけで完結してるからなぁ)
(誰かいると発見されやすくなるし、脇目も振らず逃げるって事が出来なくなるんだよなぁ)
(こんな戦法の奴今時いるわけ無いだろ!いい加減にしろ!)
と、自分達の行動が著しく制限され、それにより何か酷い目にあうのではないかと酷く怯えていた。
(ま、いいや。このクソッタレ説明が終わったらあいつ等の所へ行って)
「はい、では今回一緒になる班のメンバーはもう決まっているので、呼ばれたら前に来てください」
(あいつ等と・・・・)
「如月、佐藤、優奈,桜は前に来てください」
「」
と、いうような経緯があった。
「ウオォ!」「グギャッ!」
(これ本当にランダムなのか?絶対おかしいだろ・・・)
「ヤアァ!」「ギャァ!」
だがその他の班を見てみると、酷い所など前衛前衛前衛前衛や遠距離遠距離支援遠距離というような所もあり、本当にランダムのようだ。
(いや、役割が被ってる所あったら交換するなりなんなりしろよ。そりゃ死人の一人や二人は出るわ。杜撰すぎる。それでよくダンジョン事業に力を入れてますなんて謳えるな。馬鹿か?)
「そ~れ」「グベッ!」
(班でダンジョン探索させるならちゃんと役割をだな・・・)
そんなことを考えながら、改めて彼らをまじまじと見てみる。
剣と楯を駆使し、オオカミ型の魔物を切り伏せている少年が如月雄介。容姿端麗、輝くような金髪とそれと同じ色の目を持ち、優しい性格であり少々頭が良くないがそれを補って余りある力を備えている。まさに物語の主人公のような少年であった。
その付近で槍でオオカミの頭部を串刺しにしている少女は優奈芽衣。長い黒髪をツインテールにしている。小柄でスレンダーな体型の美少女だ。見た目も力も一級品だが少々気が強く、近寄りがたい印象を受ける。
そして後方でその様を見つめながら、時折こちらに向けて突っ込んでくるオオカミをウィンドカッターで真っ二つにした彼女は桜加奈。例にもれず彼女も容姿端麗で、紫の長い髪と大きな胸が特徴的なおっとりとした雰囲気の美少女だ。彼女は前衛ではなく、回復魔法が得意なヒーラーだが、攻撃魔法も得意なようだ。
この恐るべき冒険者の卵を見れば見るほど彼は思う。
俺いる?と。
そんな風に思案にふけっていると、「ちょっとアンタ!」と不意に怒声が飛んできて思わず声を出し身をすくませる。
「なななっなんでしょうか」
いつの間にか戦闘が終わっていたようだ。辺りに敵になるような生物はいない。いるのはオオカミ魔物の死骸だけだ。
「何であんたは戦わないのよ!それでも男!」と叫びながらズンズン近寄ってくる。
どうやら優奈は彼が戦わないことにひどく腹を立てているようだ。
「ちょ、ちょっとまってくれ」と言い、弁解しようとする。
「何が待てよ!」
「俺は斥候・・・うんそう斥候!斥候なんだ!だから戦うっていう選択肢はおかしい!」
そう言って弁解するが「そんなの知らないわよ!男なんだから正面切って戦いなさい!」と全く聞く耳を持たない。
「(この餓鬼・・・)えぇ・・・(困惑)」
「まあまあ芽衣ちゃん、役割は重要ですよ」と桜が助け舟を出す。
それに、と桜が付け加える。
「佐藤君はCランクの冒険者ですよ。そんな実績がある人の言うことなら聞き入れる価値があると思うんです」
実績があるのだから聞いてみたら、と桜からの言い分に、優奈はそれもそうかと思い引き下がる。
「マジで!?佐藤お前Cランクなの!」オオカミの解体をしていた如月がその話を聞き驚愕し、優人に真偽を聞いてくる。
「あぁ・・・うん、一応ね」と歯切れ悪く返す。
「ホントにCランクなのアンタ?そんな風に見えないんだけど・・・」
そんな様子の優人を見て、優奈は本当にCランクなのか半信半疑の様子だ。
「いやぁ、Cランクになれたのは本当に偶然だったんだ・・・」
そう、本当に偶然だったのだ・・・。そう思い優人はCランクになった時の記憶に思いをはせた。
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