イルカとソンケイは紙一重

 ギルドに着いた彼は早速ワープを使用するために、受け付けに申請をしにいった。


 こんな早朝にワープを利用するやつなんていないだろう、とタカを括っていたので、受け付けに行列ができているのを見て酷く面食らった。


(ゲェ~!こんな早朝に何でこんな・・・)


 それからたっぷり10分以上待たされ、ようやく受け付けにたどり着いた時には優人はくたびれ、使い魔たちは酷く苛立っていた。


 特にすぐに海に行けないと分かったときのジンベーの怒りは凄まじく、2回も噛まれてしまった。いたそう


「それでは、ワープを実行するので装置のなかに入ってください」 


 申請と目的地の登録が済んだので、装置に入ってくれと指示され、それに従いのたのたと筒状の装置に入っていく。


 試験管のような装置に入れられ待機していると、優人はまるで実験動物にでもなったような気分になった。


 実際その考えは的を得ていた。


 このワープ装置は導入してからまた日が浅く、課題も多いので、より多くのデータを欲していた。


 そのため、老若男女問わず多くの人が利用しているこのサービスはまさに絶好のデータ収集場なのだ。


 そんな気分になっていると、光が灯り出した。ようやく装置が起動し始めた。


 光はどんどん広がって、視界が完全に光で埋め尽くされたとき、思いっきり全身を引き伸ばされるかのような感覚に襲われ、その一瞬後に高い所から着地したかのような衝撃に襲われたときには、もう目的地に転送されていた。


「はい、ワープ完了です。お疲れさまでした」


 装置からふらふら出てきながら優人は思う。


(う~・・・、やっぱこの感覚は何度やっても慣れる気がしない)


 もともと優人はジェットコースターのようなものが苦手だったので、絶叫マシンに乗ったような感覚になるワープ装置があまり好きになれなかった。


「キュー!キュー!」ペシペシ


 もう待ちきれないといわんばかりに頭上のジンベーが催促する。


 そんなジンベーからの催促を受けながら、ギルドから出る時間の間でナイーブに陥った心を立て直し、海へ向かって飛び立った。


 しばらくオールに好きなように海上を飛ばせ、10分ほど経過した時にオールに海へ投下するように指示する。


「おら、お前の出番は終わりだ。シャチに交代だ交代」「ホー!」


 ざぶん、と音をたてて着水する。


 水中に入った瞬間、ジンベーは指示されるまでもなく縮小化を解除し本来の大きさになった。


(キュー!)


 嬉しそうにしているジンベーの背鰭をしがみつき易い形に変形させ、変形が終わってから改めてしがみついた。


 優人がしがみついた瞬間、優人の指示を待たずにものすごいスピードで泳ぎ始めた。


(キュー!)(ウギャー!)


(ギャー!止まれ止まれ!止まれ~!)


 優人からの制止のコールを全く無視し、ジンベーは思いのままに水中を泳ぎ回る。


 亀をつつき回し、水上にジャンプし海鳥達を驚かせ、魚の群れに突っ込み魚をパニックにして散り散りにしたりと、酷く自由だった。しがみついている者達を全く気にせずに。


 ようやくジンベーが速度を落としはじめた。


 おっ終わりか?と思いほっとした。


 が、突然ジンベーがある方向に向き急加速!


(ほ?!)


 疑問に思い問い質すがジンベーは答えない。


 目的の者がいる地点に到達しようやく停止。


(何だってんだいったい・・・)(キュー!)


 優人からの問いに、まぁ見てみろとでも言うかのような仕草をする。


 ジンベーの示した先に傷ついた子イルカがいた。


(は?)


 困惑する優人をよそに、ジンベーが子イルカに寄り添い鳴く。


 まるでもう大丈夫、何とかしてやる、とでも言うように。


(は?やらねーぞ)


 そんなジンベーに酷く冷めた口調で絶対嫌だと優人は返す。


(あのさぁ、俺等はこういう事には関わらない、近寄らないだろ。何度そう言った?今さら何やってんだ)


 他の使い魔達も優人に同意してうんうん頷いている。


 自分達の絶対の方針を言われても、ジンベーは頑として譲らない。


 長い沈黙があった。


 互いに黙ったまま時間だけが過ぎて行く。


 味方がいない状況でもジンベーは考えを一切変えようとしない。


 そんなジンベーの様子に、ついに優人が折れた。


(わかった・・・わかったよ・・・今回だけだz)


 了承を得たと判断した瞬間、ジンベーは子イルカを助けながら猛スピードで子イルカの群れが襲われているであろう場所に急いだ。


 しがみつきながら優人はジンベーに語りかける。


(おいジンベー、わかってんのか?イルカの群れは結構強い。ヤバくなれば離脱するたけの脳もある。そんな奴等が子供1匹逃がすだけってのはな、どういう事か分かるよな?)


 分かるなという問いに分かっているというようにジンベーは頷く。


(そゆことだ、絶対ろくなことじゃない)


 そう言って子イルカに目を移す。


 苦しそうだが命に別状はなさそうだ。


 何て事だ。優人はぼやいた。いったい何のためにこんなことしてるんだ?こんなこと自然界ではよくあることなんだから放っておけばいいじゃないか。こんな子イルカよりも何より自分の命のほうがずっと大切なはずだと叩き込んだはずなのにな、と。


 ある地点に差し掛かった時、不思議な感覚に包まれた。


(思った通り。テメー等ダンジョンに迷い込みやがったな)


 当然だか、陸だけではなく海中にもダンジョンは存在する。


 海中の場合だと計器を使って探し出すといった方法以外で探すのは困難で、ダンジョン内に入るぐらいしか方法はない。その上、海中のダンジョンは見た目があまり変化しない場合が多いので、探し難さに拍車がかかっている。


 また、優人の様に感知能力が非常に優れている者なら装置が無くても感知ができるが、水中に長時間入れて、その上高い感知能力を持っている者はかなり限られており、海中のダンジョンがあまり発見されてない理由はまさにそれだった。


(イルカだってダンジョンの感知はできる。なのに入ったとなると・・・・何かに追われてたか?) 


 イルカの感知能力の強さを知っているので、そう結論をつけた。


 索敵をした結果、かなりの広さのダンジョンであったが、優人はすぐにイルカの集団の位置を突き止めた。


 距離100キロほど先にイルカの集団と10メートル程の鮫が5匹ほどが見えた。


 イルカにとって鮫はさした脅威ではない。それは普通の鮫ならばだ。


 あの鮫は魔物だ。普通じゃない。


(なるほど、ダンジョン外に出た鮫に追っかけられたのか)


 基本魔物はダンジョン外に出ない。それは魔物にとってダンジョン内の方が居心地が良いからだと言われている。


 何にせよ滅多な事では出ないが、たまに外に出てしまう、または出ようとする個体が現れる。


 大体はギルドの者や冒険者に狩られてそれで終わりだが、認知されていないダンジョンから魔物が出てきて被害が出るということもある。


 この様なあまり認知されていないダンジョンで溢れている海中ならなおさらの事だ。


 目標地点から大体20キロ程でジンベーを止めさせ、彼は銃を構えた。


 子イルカが怪訝そうにこちらを見る。


 そんな子イルカに優人は目で語る。


 問題ない。近距離だ。


 結論から言えば、優人が考えていたばれたらどうしよう、という事にはならなかった。


 まず1匹射殺し、突然のことに困惑している両者を引き離させ、イルカ達が離れたことを確認してから鮫達を音波でさらに撹乱させて1匹1匹丁寧に射殺した。


 とんだ副収入だな、と淡々と殺しながらそう思った。


 最後の一匹を殺し終え鮫の死骸に近づき、死骸を魔法の袋(これはCランクになった記念に貰った物で、容量以上の物が入るという便利な代物である。当然ダンジョン研究の副産物だ)に入れながら、イルカ達をちらりと見る。


 あの子イルカが親らしき個体の回りをぐるぐるしている。とても嬉そうだ。


(目的は達成だな)(キュー!)


 イルカ達をダンジョン外に誘導し、別れた頃には日が傾いていた。


「頼むからもうこんなこと勘弁してくれ」と言ったがジンベーはどこ吹く風だ。


(きっとまた似たようなことが起きるんだろうな)


 沈み行く太陽をぼんやりと見つめながらそんなことを考えていた。


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