落ちた落ちた。

天から落ちた。

開けねば幸い、開けたら禍。


堕ちた堕ちた。

天から堕ちた。

目覚めぬ不幸、目覚めた希望。


開けたらお終い。

目覚めぬお終い。




「パティラ」


男が大きな木の下で上を見上げながら、娘の名前を呼ぶ。

そうすればひょっこりと枝の間から、赤毛の少女が顔を出した。


「あ、パパーー!」


嬉しそうに茶色い目を細めるエイミーとは対照的に、男はどこか不機嫌な顔をして口を開く。


「またそんなところに登って!怪我でもしたらどうするんだ」


どうやら怒っているようである。

パティラはけれど男の機嫌の直し方を心得ているから、するする慣れた手つきで地面に降りると、すぐに駆け寄っていって抱きついた。


「パパ、ごめんなさい」


そうして頬にキスをすれば、男はたちまち機嫌を直すのだ。


「仕方ない奴だ。今日だけだからな」


この言葉は何度目か。

娘可愛さには、父親としての男も微苦笑しながら、パティラを肩に担ぎ上げた。


「夕ご飯が出来たから、うちへ帰るよ。母さんが待ちわびてる」


「もうそんな時間だったのね!」


パティラは男の娘であったが血は繋がっていなかった。

ある日家の前に籠に入った赤子のパティラが置かれていたのだ。

子どもに恵まれず何度も流産を繰り返していた妻は、もう子どもは諦めろと医者からも見放された矢先である。


2人はきっとこの子は神様からの贈り物だと信じて、自分たちの子どもにしたのだ。


「そういえば見てパパ!」


肩に座ったパティラが、スカートのポケットに入れていたであろう手のひらサイズの正方形の箱のようなものを取り出した。


「何だそれは、箱なのか?」


「んー?わからないの。でも綺麗でしょう」


たしかにそれは不思議な光沢のある箱は、光の加減で七色の色彩を作り出していた。


「さっきそこで拾ったんだけど、振っても何の音もしないんだけど、持ってるといいことありそうな気がするの!」


木の根元を指差しながら、パティラは嬉しそうに微笑んだ。


「もし誰かのだったら大切なものなら探しに来るだろう?その時は返してあげるんだぞ」


どうもその綺麗な箱を、男は何故だか気味が悪いと思ってしまった。

少し残念そうにしながらも、頷くパティラの頭を撫でて帰路につく。


そして男ーーエピウスは後悔する。

妻のロメティが気味悪いと、あれだけ捨てなさいと言っていたのに。


「ああ…、パパ…助けて…」


美しく成長したパティラは、蒼白な顔で助けを求めていた。


その手のひらには開かれた不思議な箱があった。

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