「……何、さっきの喋り方気持ち悪い」


ジロリと隣を睨みつければ、憎たらしいぐらい綺麗な顔がニヤリと嫌らしく笑っていた。


「一応俺も魔王陛下様なんだよ。しかたねぇーだろ」


「ちょっ!それあたしの!」


人のミルクティーのカップを奪うと、太郎はそのまま飲み干してしまう。


(マルスがせっかくいれてくれたのに…)


空になったティーカップを恨めしげに見ながら唇を尖らせた。


「で、何が最悪だったんだ」


「太郎くんにお姫様抱っこされたことっ!」


どうせわかっているのに聞いてくるのがまた腹がたつ。

華子はヤケになって大きな声で怒鳴ると、それをまた楽しそうに太郎は笑う。


「それで?」


「……だから」


「安心して気を失ったうさぎをベッドまで運んでやっ」


「うるさいうるさいうるさぁあいっ!安心したとか言わないでっ!!」


「本当のことだろーが」


「違うっ!!!」


隣に座っているのも嫌なので、勢いよく立ち上がって、近くにある椅子を寝台ベッドから遠ざけて座った。

本当は図星を指されたからでもある。


悔しいぐらい頬が紅潮してしまう。


「……せっかく助けてやったのに礼もなしかよ」


どこかつまらなそうに聞こえるのは気のせいだ。

でも確かに、助けてもらったのは確かなのにお礼も言わないのはどうだろう。


俯いていた顔を上げれば、そっぽを向いていてその顔色はうかがえない。


(まさか…本当に拗ねてるの?)


そんなはずないと思う一方で、少し期待している自分がいてブンブンと首を振る。


(騙されちゃダメよ。華子!こう言うのには必ず裏があるんだから…!)


唱えながらも、下げた視線を再び太郎に戻す。


大きな襟のついたゴテゴテした重そうな漆黒の革のロングコートに、黒の革のパンツを合わせている姿はいわゆるビジュアル系に近い。

けれどプラチナブロンドに良く映えていて、カッコイイなんて言葉で表せないほど、綺麗な人がそこにいた。


(ここ何年かで本当一気に成長したよね…)


ちょうど少年と青年の間。

まだ大人になりきれていない顔立ちはどっちつかずで、褐色の肌が余計に彼を神秘的に見せている。


天使のように綺麗な人。

もちろん天使を見たことがあるわけないけれど、そういう例えがしっくりくるのだ。


(中身はクズだけど…)


未だにそっぽを向いたままの太郎に、華子は極最小で呟く。


「………ありがとう」


それは声が出てるかも怪しいほどに小さかった。


それなのに、太郎がゆっくりと振り向いてくる。

とても楽しそうに、ニヤリと口角を上げた奴を見て、華子はもちろん後悔した。


「そういや、うさぎも成長したじゃねぇーか。ピンクのフリフリレースとは大人になったな」


「………っな、んで……?」


フリーズしかけの華子はかろうじてそれだけ言葉する。

すると太郎はトントンと自分の服を指で叩いて、華子を指差した。


(まさか…っ)


ゼンマイ仕掛けのブリキの人形のように、ギギギと頭を下げて服を見る。


それは見慣れたセーラー服ではなかった。


「俺が着せてやったんだ。うさぎ」


ーー感謝しろよ。


ベージュの可愛いノースリーブのネグリジェ。

一度は憧れたことのあるそれが、華子を包んでいた。


「っっっっ!、太郎くんなんて大っ嫌いだぁあああ!!!」


それが喜ばす一言になろうとも、叫ばないではいられなかった。

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