あした必ず死ぬとわかっている人々の、《最後の晩餐》を集めた短編集

楽しみにしていた名瀬口にぼし先生の新作は、明日死ぬとわかっていても、今日、食べることをやめられない《人間の業》に、限りなくストレートに切り込んだ作品でした。

ファンタジー世界の《食》にスポットを当てた作品はありがちですが、この作品の風変わりな点は、登場人物たちがはやいところで明日、あるいは早晩、種々様々な理由によって《死ぬ》と確定しているところ。
人種も性別も、職業も身分も様々な死者たちに、必ずあったはずの《最後の晩餐》。それらの風景を、感情を、においや音を、短編集という形で切り取ることで、読者は「彼らが最後に何を、どんな風に食べたのか?」という薄暗い好奇心を思うさま満たすことができるのです。

とくに、明日死ぬと本人がわかっている場合は、まさに極限メシ。
自覚がない場合でも、ほんのりと破滅の足音が迫っていて、あたたかで幸福感すら漂う食事風景が複雑な色合いを帯びてきます。

ごはんものファンタジーはカクヨムにも星の数ほどあるけれど、「この発想はなかった~!」と素直に膝を叩くことができる。というか、《ごはん》と《ファンタジー》を足して《最後の》で割るとダークファンタジーが生成されるの、シンプルに凄~~~~い。冷や汗が止まりません。
名作です。

その他のおすすめレビュー

実里晶さんの他のおすすめレビュー83